認知症になる人、ならない人の違い

黒坂岳央です。

知人の経営者や親族の高齢者の中に「最近ボケ防止に脳トレを頑張ってる」という話を聞く事が増えた。自分自身、昔から老化のプロセスとその予防に興味があって、20代の頃からたくさんの書籍を読んで研究してきた。しかし、彼らが取り組んでいるボケ防止を目的とした脳トレはズレている事が多く、「それでは効果が出ないのでは?」と感じる事が少なくない。

筆者は老人医療の専門家ではないが、これまで学んできた個人的研究と体験を交えて私見を取り上げたい。

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難聴の放置は認知症に悪影響

多くの医師に指摘されていることの一つに、「難聴を放置してはいけない」ということである。国⽴⻑寿医療研究センターによると、中年期に難聴があると高齢期に認知症のリスクがおよそ2倍上昇するが、補聴器を適切に使うことで認知症の発症リスクが軽減するという。

難聴が認知症にもたらす悪影響は複数だ。まず、相手との会話に支障をきたすため、話す声が大きくなり相手の話を聞き取りづらくなる。これにより、会話にストレスを感じて人とのコミュニケーション機会を失う。人間にとってコミュニケーションは強い刺激であるが、それが絶たれてしまうことで孤独感を強めて脳への刺激低下になる。また、音声情報が脳に届かないことで、刺激機会を失うデメリットも有る。

これほど脳に甚大な悪影響があるにも関わらず、自分の知るお年寄りの多くは頑なに補聴器を拒絶する。「まだまだ聞こえるから」「相手にゆっくり大きな声で話すように頼めばいい」とあまり難聴の恐ろしさを理解していないようである。

話を聞いていると補聴器は老化を強く実感させるアイテムであり、それを受け入れることは自分が高齢者である事実を突きつけられるような心持ちになるのだろう。それが50代であればまだ拒絶反応が出るのはわかるが、すでに70代半ばで誰が見ても高齢者であるのに、本人は非常にプライドが高く「自分はまだまだ若い」と頑なに拒む。実際にはこの頑固な姿勢こそが何よりお年寄りの象徴のようであるというのに。

難聴は放置せず、素直に補聴器をつけるべきだろう。

計算ドリルやパズルは効果なし

複数の精神科医や脳科学、心理学者から出される見解の一つに「多くの脳トレに認知症予防につながる大きな効果は期待できない」というものがある。

自分の周囲のお年寄りは新聞のクロスワードパズルを解いていたり、計算ドリルを買って頑張る人もいる。だがその程度の刺激では認知症には太刀打ちできない。

単純な計算問題を解くことで瞬間的に脳が活性化する、という話はあるのだがあくまで一時的に過ぎず、すでに解ける問題をより正確に高速に解くことができる以上の効果は期待できない。

脳に強い刺激を与えるには、後述する運動や仕事を通じた社会的な交流がより重要だとされている。頑張るべきはそっちだ。

効果的な対策は運動

それでは有効な対策は何があるのだろうか?1つ目は運動である。

まず運動について言えば、想像以上に効果が大きい。人間の脳は全身運動と密接につながっており、運動をすることで脳も活性化することがわかっている。よく言われることに「文武両道」という言葉があるが、これはその通りで運動習慣がある人ほど脳も活性化し、強い集中力や体力を作ってくれるから勉強にも強い。反面、ガリ勉だが成績が伸びないタイプほど部屋で引きこもって勉強ばかりして運動不足、ということが少なくない。

加えて、運動をするということはよく動くということであり体力がある。そうなれば公園へ散歩したり、山登りや旅行へ出かけることにつながり脳がそこから刺激を受けてさらに活性化するし、楽しい活動やビビッドな体験を経て気持ちも前向きになってさらに活動的になる好循環を作ってくれる。実際、年齢不相応に元気で頭もよく動くと感じる高齢者は総じて運動習慣を持っていると感じる。

自分はまだ高齢者の年齢ではないが、運動が脳の活性化に強く影響する感覚がある。昔から運動が大嫌いで部屋にこもるのが好きなインドアタイプだったのだが、パンデミックのステイホームの時に本格的に運動不足で体重増加で危機的状況に陥った。そこから本気で心を入れ替えて今はパーソナルトレーナーをつけて、運動をするようになった。

それをしたことで、まず体力が大幅に増強された。これまでは午前中フルコミットで仕事をすると疲れ果ててしまい、昼寝をしないと午後の仕事ができなくなることもあった。しかし、現在は早朝からノンストップで夕方まで働いても平気になったのだ。それに連動して脳体力も大幅に増加、高度で負荷の強い知的作業も長時間続くようになった。

また、気持ちが前向きになり成果物もポジティブな思考が反映されることが多くなったように感じる。運動不足だった20代、30代のサラリーマンの時期より頭もよく動くと感じる。

運動習慣は想像以上に脳に効く薬であることは自己体験からもそう思うので、運動不足気味の人はぜひ検討してもらいたい。

やはり最強の脳トレは「仕事」

そして何より一番の脳トレは仕事で間違いないだろう。仕事で得られる脳刺激はお金で買うことができない。

仕事には責任がある。相手からお金を受け取っている以上、課せられた責任は必ず納期までに果たさなければいけない。この程よいプレッシャーが制約下での創意工夫を生み出し、人をクリエイティブにする。それらが脳へのいい刺激になる。

そして仕事にはコミュニケーションが生まれる。筆者は仕事柄、人にアドバイスをする仕事をしているのだが、そのことで老若男女いろんな人との会話が生まれる。仕事がなければ、自分の話し相手はかなり限定的になってしまうだろう。子供が巣立てばもう妻と兄弟、親戚くらいとしか話し相手はいなくなってしまう。だが仕事を続ければ違う。社会とのつながりは仕事が作ってくれる。

仕事で価値提供というミッションを背負っているから話し方を工夫するし、相手の感情に配慮してコミュニケーションを試みる。これは確実に脳へのいい刺激になるのは間違いない。よく言われる話に「取り扱いが面倒くさい人を相手にしないといけない人ほどボケない」というものがあるが、これはコミュニケーションがいかに脳にいい刺激になるかを示すエピソードだろう。

さらに仕事は情報収集や発信と強み結びついている。仕事をする上で専門技術を研究したり、自分なりにまとめて発信する必要がある。このプロセスで頭の中はインプット、アウトプット両方使う。

脳トレなどでは単にすでにできることをひたすらなぞるだけだが、それに比べればこれは大きな刺激になるだろう。自分も動画一本作るのに何日もかかるし、情報収集やファクトチェックだけで一日かかってしまうことだってある。仕事をしなければ、これほど強度の強い脳刺激を作ることは難しい。

最後に仕事は新しい挑戦を伴う。人間を健全にする一番の薬は「未知の領域に挑戦する」これで間違いないだろう。当然、そのような活動は失敗もしてしまうが、その失敗経験が人を謙虚にしてくれるし、努力する他者をリスペクトする姿勢を作ってくれる。

その逆になんにも挑戦しない人は、年を取るとほぼ確実と言っていいほど他人にダメ出しをして足を引っ張り、ヤジを飛ばす評論家になって疎まれる。これがいわゆる老害の精神的な内部構造であり、他罰的思考の根本は自分の人生で新しく挑戦することを諦めた心理に立脚する。仕事以外で新しいことに挑戦し続ける機会を作ることは難しいので、何歳になってもずっと仕事は続けた方がいいだろう。

認知症予防は高齢者になってから慌ててするより、できれば認知症予防になるような生活習慣を40代から始めた方がいい。習慣化してしまえば自然に続く。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。