グーグルは解体されるのか?:強制されればアップル、アマゾンも分割必至

グーグルの検索機能は他社のそれに比べパワフルだと思います。いや、それ以上に他社の同様サービスを使う癖が無くなったといってもよいでしょう。地図でもそうです。グーグルマップがあまりにも機能的で便利な上に使う側にとってみれば「使い慣れて」「マイ ディファクト スタンダードになっている」こともあるのでしょう。

スンダー・ピチャイGoogleCEO 同氏インスタグラムより

自動車に搭載されるカーナビ。純正搭載の時代ではなくなりそうです。今回購入したトヨタ車もグーグルマップと連携させるように仕向けており、スマホを車載のシステムにつなげ、車のディスプレイに表示します。理由は「地図のアップデートはグーグルにかなわない」であります。

そんなグーグル天国に待ったをかけようとしているのがアメリカ司法省であります。一言で言えば「おまえら、デカすぎる。一部事業を売却するか、会社分割せよ」と。20年ぐらい前にマイクロソフト社をめぐり全く同様の議論で大騒動になりました。その時はマイクロソフト社が「うまくやり」、会社分割から逃れられた経緯があります。では今回はどうなのでしょうか?あの時とは時代背景がだいぶ変わりました。マイクロソフトのようにはいかないでしょう。

切り口は2つあると思います。一つは大統領選の行方です。IT関連巨大企業への嫌悪感は民主党内の左派グループに根強くあります。今回、司法省の動きを支える陰の立役者はバイデン大統領です。バイデン氏自身はさほど本件に強い関心があるように見えないのですが、党内の左派からの強い声に押される形になっているように感じます。よってあと数週間後に迫る選挙でハリス氏が勝てばこの動きは今以上に強化されるとみています。一方、トランプ氏となった場合、司法にどれだけ介入する気があるかわかりませんが「抵抗勢力」になるとみています。

司法当局は25年夏までの判断を目指しているようですが、どうせ、グーグル社が「はい、わかりました」というわけがなく、長い闘いの中で時の政権が影響してくるとみています。

もう一つの切り口は経済学論争です。巨大企業の功罪は経済学者の論争の対象の一つであり、独占に対して融和的なシカゴ学派に対して今回の主張は反トラスト法を掲げる新ブランダイス派とされます。反トラスト法とは一種の独占禁止法ですから一つの企業が圧倒的市場シェアを独り占めするは経済学的に正しくないとするわけです。

歴史的にはアメリカは反トラスト法が主流だったのですが、60年代ごろからシカゴ学派の思想に変わっていきます。現在は過渡期にあるわけです。

ではおまえはどう思うのか、と聞かれると分割しても問題ないと思う、と答えます。

1-2年ぐらい前に「コングロマリット ディスカウント」という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。そう、東芝を分割すべきかという議論の時に出た言葉です。平たく言うとある企業が3つの事業を持っており、それぞれの価値が5と7と3だとします。合計で15になるはずですが、この会社の価値は実際には13にしかならないことがしばしば起きています。つまりこの差の2がコングロマリット ディスカウントということになります。東芝の時は故に分割してもいいじゃないか、という議論が出たわけです。

では実際に会社分割をしたGE(ゼネラル エレクトリック社)のケースはどうだったでしょうか?私は分割前から株主でして、つい数週間前に分割された株式を含め全部きれいに売却したのですが、会社の価値は想定以上に上がったと申し上げます。ざっくり2倍以上になり、株価はまだ上昇を続けています。私は一種の細胞分裂だと思うのです。そしてそれぞれの細胞が単独で生き、成長する力を持っている場合、分割は有効だと言えるでしょう。

似たケースに傘下に目薬のボシュロムを抱えるカナダ企業のボッシュ ヘルスがあります。そこも私が好きな銘柄で長年売り買いを繰り返していますが、分割により会社価値が向上し、もともとの親会社の借金を大幅に削減させ、会社再建が大幅に進んでいる状況です。

グーグル分割についてはたぶん、経済学の学派論争が大きく影響してくると思います。シカゴ学派はマネタリスト系ですし、ノーベル賞も多数受賞しています。端的に言えば「適者生存の理論」であり強いものが生き残るという考えです。学派系統的に対立するのがハーバード学派ですが、さほど力強いという意識はありません。ただ、シカゴ学派も古く、現代の経済学思想に合わなくなりつつあり、第三極を含め学派は分裂気味な感じがあります。よって学術的主流争いが一企業の在り方を問うケースになる可能性もあると思います。

仮にグーグルの分割が強制されればアップル、アマゾンなど他の巨大IT企業も分割必至ですからアメリカにとって企業の在り方と成長に大きな倫理的変化を招くことになるでしょう。結果が出るのは数年先ではないか思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年10月10日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。