こんにちは、自由主義研究所の藤丸です。
先日10月9日(水)、衆議院が解散されましたね。
そこでのニュース記事で、「最低賃金1500円」が話題になっていました。
最低賃金1500円「高すぎる」 衆院選の与野党公約に悲鳴 年89円増額で人件費膨張
”衆院が9日午後、解散された。与野党が経済政策の要と訴えるのが最低賃金の引き上げで、「時給1500円」を目標に据える。”
産経新聞の記事より
さっそくSNS上では、
「最低賃金1500円は素晴らしい。これくらいの給料払えない企業は潰れろ!」
「労働者にとっては、最低賃金が上がることは望ましいことだ。それを否定するのはダメな企業だ」
との意見があり、賛同者も多いようです。
確かに、今の物価高(インフレ)で家計が苦しくなっている中、お給料が上がるのは素直に嬉しい気がします。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
労働者にとっても、今の日本で「時給1500円」以上の働き(仕事内容)を求められるのは、なかなか厳しいことです。
熱心に仕事をバリバリしたい人はいいかもしれませんが、そこまで熱心に働きたくない人もいます。能力的にも難しい人もいます。
お給料は低くても、嫌な仕事はなるべくせずに、無理せずのんびり働きたい人もいます。
未経験でも仕事をする中で少しずつ経験を積んで、技術を身につけたい人もいます。
そういう人にとって、最低賃金がどんどん上がることは、果たして本当に望ましいことなのでしょうか?
「最低賃金が上がると、その金額を稼ぐ能力のない労働者は解雇される」とよく言われます。つまり、一番の弱者である低技能労働者が仕事を失うのです。
日本では解雇規制があり、実際には解雇はそんなに簡単ではないかもしれませんが、以前よりも新規の雇用は減るでしょう。
面接に来た人が即戦力となるような経験や技術を持った人でなければ、採用されることは難しくなるでしょう。
新規雇用が減るということは、転職しにくくなるということでもあります。
ここで、今回は「いろんな働き方があってもいいのではないか?」「働き方の多様性」という視点から、最低賃金が引き上げられた場合におこることを、具体的に考えてみたいと思います。
自民党の主張では、「2020年代に1500円」ということですが、話を超単純化するために、1500円に一気に上がったら、どうなるだろうかと考えてみたいと思います。
賃上げによる企業負担を減らすため、企業へ補助金を出したり税優遇などもありますが、話が複雑になるために今回は考慮しません。(税金で給料の一部を補填するに等しいこのような行為は、社会主義的で大問題だと思いますが)
近所の飲食店を想像してみてください。どこにでもあるような小さな店です。定食屋でも喫茶店でもいいです。
あなたがよく行くお店で、そこそこ人気がある店です。
そこでは、店主以外に、3人のパートさん(A〜Cさん)が働いているとします。
とある飲食店の3人のパートさん
【Aさん】
今年入ったばかりの新人さん。仕事経験はほとんどありません。他人と話が苦手なので接客はやりたくありません。複数の作業に優先順位をつけてするのも苦手なので、1つの作業をずっとすることが好きです。仕事内容は掃除や片づけなどに限定する、という条件で雇われています。時給は1000円。【Bさん】
勤務5年目で、店の業務は一通りすべてできます。特に仕事熱心でもありませんが、普通に頑張って少しずつ業務ができるようになり、毎年少しずつ昇給しました。今の時給は1500円。【Cさん】
店のオープン時からいるベテランスタッフ。店の業務をすべて完璧にこなし、新人の教育も任されてきました。常連客からの評判もよく、店主からも信頼されています。時給は1800円。
最低賃金が1500円になる前、3人はそれぞれ1000円、1500円、1800円で雇用されていました(店側は、1時間あたり合計4300円を人件費として払っていました)。
そこで最低賃金が1500円に引き上げられたとします。
最低賃金以下で雇用を継続することはできず、解雇もできないため、時給1000円だったAさんの賃金は1500円になります。
つまり、Aさん1500円、Bさん1500円、Cさん1800円になります(店側は、1時間あたり合計4800円を人件費として払うことになります)。
1時間あたりの人件費が4300円→4800円と急に上がったことで、店は経営が苦しくなり、Aさんのシフトを減らしてもらうことにしました。
※店のメニューを値上げすればいいじゃないか、という意見もあるかもしれませんが、値上げすれば売上が増えるとは限りません。値上げしたことで、販売数が減るかもしれないからです。詳しくは以下をご覧ください。
さて、3人の労働環境はどのように変わったのでしょうか?
Aさんは、シフト時間は減りましたが、当分は不満はありません。時給があがったことに単純に喜んでいます。
BさんとCさんは、給料が変わらないのに、労働がきつくなったことに不満です。今まではスタッフ3人で店内業務を回していたのに、Aさんのシフトが減ったため、これからは週に2回はスタッフ2人で回さないといけなくなってしまったのです。
Aさんはできない仕事が多く単純作業のみをやっていましたが、それでも2人は助かっていました。2人で回すとなると、店はバタバタと忙しくなり、客を待たせる時間も長くなり、客が諦めて帰ってしまうこともありました。
結果、スタッフ2人の日の店の売上は減ってしまいました。
3人とも出勤の日も、もはや以前の仕事仲間の関係ではいられません。
BさんとCさんは、明らかに仕事のできないAさんが突然50%も昇給したのに、自分の給料は全く変わっていないことに不満を持っています。
Bさんは、自分とAさんも時給が同じことで、自分の5年間の頑張りが全く評価されていないと感じています。また、自分と同じ時給を得ながら、楽な作業しかしないAさんに不満が溜まっていきました。
そこで、店主はAさんに、単純作業だけではなく、接客など他の2人と同じような業務もやってほしいと頼みます。
Aさんは、苦手な接客はしたくありません。急にそんなことを言われても困ってしまいました。
このように、最低賃金が政府の命令により突然上がったことで、この平和な飲食店では、大きな変化がおこりました。
スタッフが2人だけの日は、人手が足らず売上が減りました。
スタッフが3人の日も、職場の人間関係・仕事内容にに不平・不満がたまり、次第に頑張る気がなくなっていきます。
そして、店の売上は徐々に低下します。
それに伴い、店の利益も低下し、優秀なAさん、普通に頑張っているBさんの昇給はますます遠のきます。以前は支給されていた臨時ボーナスもカットされてしまいました。
話をかなり単純化しましたが、最低賃金規制により、このようなことがおこると想像できます。
一気に1500円に上げることはないとしても、程度の違いはあれ、このようなことが多くの特に小さな店では現在も起こっています。
技術や経験が豊富で今後もバリバリ頑張って働きたい人と、技術も経験もないけど仕事はほどほどにしたい人。
どちらの働き方もその人の人生観・価値観です。
しかし、賃金は店の利益から支払われるので、利益をあげることができなければ賃金もそれなりになります。
どちらの働き方でも、その労働者の人生観やそのときの状況によって選べるほうがよいのではないでしょうか?
賃金が不自然に高いということは、求められる仕事のハードルも高くなるのです。
また、このまま最低賃金がどんどん上がるとしましょう。仕事を頑張りたい人もそうでない人も、お給料に差がほとんどなくなってくるとします。
そのような社会では、誰もが仕事を熱心にする気がなくなっていくでしょう。まさに社会主義や共産主義が失敗した理由の一つです。「働いたら負け」「頑張ったら負け」の社会が、豊かに経済成長できるわけがありません。
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最低賃金を引き上げることで、それに耐えれない企業は廃業し、一時的には倒産が増えるが、残った”強い企業”が栄えるので結果的に経済が成長する、という意見もあります。
しかし、政府の政策により、”弱い”企業を強引に倒産させることは本当に望ましいことでしょうか?必要なことなのでしょうか?
企業は労働者を雇用するときに、賃金や業務内容を定めた雇用契約を結びます。政府が強制的に最低賃金を上げることは、その雇用契約が政府の都合で強引に変えられることでもあります。
”弱い”企業を、超低金利や補助金のバラマキによって延命することは、ゾンビ企業になるだけですので私は反対です。
しかし、雇用主と労働者の両者が納得して結んだはずの雇用契約に、後から政府介入によって、無理に賃金を上げさせることが良いとはとても思えません。
雇用主側も労働者もそれぞれ都合があります。双方が納得しているのなら、もっと自由に仕事をさせてほしいのです。事情を何も知らない政府がそこに介入することは、両者にとって望ましいことではないのです。
編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2024年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。