派閥抗争の末に過去の事件は不問になりそうな東京9区

自民党の裏金議員非公認・比例重複拒否は、悪いことでないが、他の政治腐敗への対応とのバランスの悪さ、場合によっては執行部に近い議員への身びいきは後味の悪いものだ。

その典型が、東京9区(東京都練馬区)だ。

自民党派閥の裏金事件を受け、220円不記載だった東京9区支部長の元職今村洋史(旧清和会)が非公認となり、立候補を断念した。

このことで、2021年7月に公職選挙法違反(寄付の禁止)の罪が確定し公民権停止3年の命令を受けていたが、2024年7月に公民権が回復した元経済産業相菅原一秀が無所属で立候補し、もし当選すれば自民党追加公認を受けることになりそうだ。

この選挙区では、小選挙区制度発足時の1996年には、新進党の吉田公一が民主党の小川敏夫、自民党のガッツ石松を破って当選した。

2000年には民主党に移った吉田が、自民の菅原を破って当選したが、2003年には菅原が勝利し、菅原は2005年にも再選された。しかし、2009年には民主党から岩崎弥太郎の玄孫、渋沢栄一の曾孫という金融マンの木内孝胤が出馬して選ばれ、菅原は重複立候補していた比例で救われた。

そして、菅原は2012年の郵政選挙では、木内に圧勝した。2014年も菅原が勝利したが、維新の党に移っていた木内も比例で復活。2017年には、希望の党が木内を外して東京8区で石原伸晃の選挙区にまわして高松智之をたてたこともあって楽勝した。

菅義偉の側近として台頭した菅原は、2019年には経済産業大臣となったが、「週刊文春」が地元の有権者にメロンやカニなどを広範に贈ったこと、秘書に対するパワハラが報じられ経済産業大臣を辞任した。

この事件で東京地検特捜部は菅原をいったん不起訴処分としたが、検察審査会は菅原の公職選挙法違反容疑を「起訴相当」と議決して起訴されたので議員辞職し、「罰金40万円・公民権停止3年」が確定し公民権停止となった。

たしかに清和会の政治資金報告書不記載は、あまりにもおおらかで大規模だが、収賄とか買収とかいったものと同等の悪質性ではない。モリカケ問題のときも、安倍首相の昭恵夫人にひっかけて「アッキード」などとマスコミは騒いだが、三億円の収賄という巨悪と、一銭の金のやりとりもともなわない話と同様のレベルで論じるのはバランスを極端に欠いていた。

一般的にいえば、土木利権を握って成長したのが田中角栄とその流れを汲む、与野党の政治家であって(立憲民主党の主導権を握っているのは旧田中・竹下派の政治家である)、清和会系の利権がないわけでないが相対的には小さいものだし、まして、安倍元首相はそもそも政治資金をあまり必要としない人だったから金銭スキャンダルとは無縁だった。

今回の今村元議員の裏金も菅原元経産相の問題と同等のものとは言いがたい。しかし、それでも今村議員を狙い撃ちにした処分をして、実質的には菅原議員の復活を後押ししようという意図が丸見えの非公認に、清和会の人たちが割り切れないものをもつのは当然だろう。

菅原の辞職後の前回総選挙では、自民党は萩生田元政調会長の地元の有力者である安藤高夫が立候補したが立憲民主党の山岸一生に敗れて落選した。安藤は2017年に比例単独で当選していた。安藤は今回は東京28区から立候補する。この新設選挙区では公明党も候補擁立を希望していたので、自公対立が燃え上がることになった選挙区だ。

一方、立候補予定だった今村はもともと愛知県が本拠だが、もともと次世代の党で政界での活動を始め、日本維新の会で単独比例で当選したことがあるが、前回の総選挙では東京15区から出馬して落選(自民党が今村・柿沢未途の二人を推薦)。今回は党本部からの要請で9区からの出馬を予定していたのだから、派閥争いに翻弄された感がある。

東京9区(小選挙区)予想される顔ぶれ
左:山岸 一生 中央:すがわら 一秀 右:大河内 しげた

立憲民主党の山岸一生は、元朝日新聞記者で菅直人時代の官邸の名物記者として知られ、参議院東京選挙区からいちど落選したあと前回の選挙で9区から出馬した。新聞での言論活動の延長線上で政界入りした感があって話題となった。

維新からは、自民党の稲田朋美元防衛相の政策秘書だった大河内茂太が出馬する。元宝塚市議で、皇位継承問題などでは保守派の論客として知られるが、一方で稲田が超党派で人権問題を取り上げることをサポートするなど霞ヶ関の大物秘書の一人で、維新には珍しい実力派で当選すれば重宝されるだろう。前出の木内孝胤元議員も支援している。

こうした状況で頭が痛いのは、公明党支持者だろう。自民党の混乱とスキャンダル、それから東京28区問題のしこりもあるなかでどういう判断をするか苦慮しているはずだ。