世界から相手にされない「アジア版NATO」:実現可能なのか?

自民党の小野寺五典政調会長はアジアにおける安全保障の仕組みを議論するためのタスクフォースを衆院選後に発足させることを発表しました。この新しい組織は石破首相の肝いりの構想である「アジア版NATO」の推進していくものと見られています。

石破首相が総裁選から主張してきた「アジア版NATO」ですが、インド・太平洋地域の同志国からの評価はあまり高くありません。

インド外相は石破首相が誕生すると即座に「アジア版NATO」構想は「共有しない」と言明しています。

また、石破首相の外交デビューとなったASEAN首脳会議では「アジア版NATO」は封印されました。東南アジアの国々は海洋進出を進める中国を警戒していますが、あからさまな対中軍事同盟である石破氏が掲げる「アジア版NATO」には難色を示しています。

ASEAN首脳会議に出席する石破首相 首相官邸HPより

米国の知日派の代表格であるジョセフ・ナイ氏は「アジア版NATO」が「実現不可能」だと断定しています。

石破首相は「アジア版NATO」が対中抑止に役立つと最近では主張していますが、以前は中国を含めた同盟の枠組みであるという認識を示していました。

石破首相は「アジア版NATO」が「集団安全保障」の一種であるとしていますが、この概念は仮想敵を前提にしていません。石破氏の構想は脅威に対抗するために抑止体制であり、その仕組みを表す用語は「集団防衛」です。この石破氏の政治用語の誤用に対して、国際政治学者の皆様から指摘が入っています。

いろいろ注文を付けたい石破氏の「アジア版NATO」構想ですが、東アジア情勢が緊迫化していく中で、どのように地域の秩序を維持していくかが喫緊の課題となっています。その意味では石破氏の問題意識は的を得たものであり、同氏の提言をきっかけに既存の固定概念にとらわれない発想が出てくることを望みます。