「読書をすると思考力が向上する」は本当か?

本を読むとき、脳の構造を理解して記憶に定着しやすい読み方を身に付けなければなりません。思考力を向上させる読書術について解説します。

私たちは何かを学んでも、時間の経過とともに忘れてしまいます。「なんで忘れてしまうのか」と嘆いても仕方ありません。脳はそのような構造になっているからです。本を読む場合でも、脳の構造を理解して記憶に定着しやすい読み方を身に付けなければなりません。

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エビングハウスの忘却曲線

これは、ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスの発表した「エビングハウスの忘却曲線」のことです。この研究では、無意味な音節を記憶した上で、時間とともにどれだけ忘れるかを数値化しました。

その結果は次の通りでした。人が何かを学んだとき、

  • 20分後には42%忘れる
  • 1時間後には56%忘れる
  • 9時間後には64%忘れる
  • 1日後には67%忘れる
  • 2日後には72%忘れる
  • 6日後には75%忘れる
  • 31日後には79%忘れる

というものです。

ただし、この研究結果には注意点があります。それは、「無意味な音節を覚えたとき」の研究結果だということです。これが意味のあるデータだったらどうなったでしょうか。

例えば、銀行の暗証番号や電話番号はなかなか忘れないものです。意味のない10桁の電話番号はすぐに忘れてしまいますが、自宅の電話番号はなかなか忘れません。円周率も、意味のない人にとっては、3.14で十分ですが、ギネス公認世界記録は、7万0030桁です。

ほかにも、年号を覚えるための語呂合わせがあります。これなら、年号を10個覚えて20分後には42%忘れ、1時間後に56%忘れるとはなりません。

エビングハウスの研究結果のポイントは5つあります。

  1. 何かを学ぶとき、それが意味のあるものなら暗記は容易であること
  2. 逆に意味のないものであれば、すぐ忘れること
  3. 時間をかけることで、蓄積される情報量も増えてくること
  4. さらに復習を重ねるごとに、忘れにくくなり定着すること
  5. 一気に覚えるのではなく、細かく分けることで効果がアップすること

定着させるには何が必要か

カナダのウォータールー大学の研究結果では、何も知らないところから学習し知識を得た場合、記憶は100%のところに上がります。このまま学習をしないと「エビングハウスの忘却曲線」の通り、時間の経過とともに記憶は失われていきます。しかし、24時間以内に10分間の復習をすると、記憶率は100%に戻ります。

さらに、1週間以内に5分の復習で記憶がよみがえり、1カ月以内に復習すれば、2〜4分で記憶がよみがえります。

適切なタイミングで学習を行えば、10数分の復習で学んだことが定着するのです。学生であれば、その日の復習、1週間以内の復習、1カ月以内の復習がいかに大切かが分かります。これをしないと悲惨な結末が待っています。同じようにまた最初から学習しなければいけないからです。1カ月後には80%近くの情報を忘れるわけですから。

この法則を踏まえれば、効果的な読書方法が分かります。今日は1ページを読んで、明日は1ページを読み直して2ページまで読みます。明後日は、2ページを読み直して、3ページを読みます。7日目からは、6ページと7ページを読み、1ページも反復復習します。この読み方なら全部を読み終わったときに記憶に定着するはずです。

読んだ本をアウトプットする方法はいくつかあります。本への書き込み、人に話すなどがありますが、さらにステップアップしたいようでしたら、本で読んだ内容をまとまった文字数の記事にまとめ、自分の考えや主張を発信すると効果的でしょう。なお、筆者は、10年以上、読んだ本を記事にすることで記憶に定着させています。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)