「早期リタイヤが人生目標」という残念さ

黒坂岳央です。

パーソル総合研究所の調査によると、20~30代の若手男性ビジネスマンの中でアーリーリタイアを希望する人が多いというデータがある。いわゆるFIREと呼ばれる生き方である。

気になるのが彼らが「FIREしたい理由」だ。調査では約3割が「働くのが好きではないから」、残りは「趣味は遊びに時間を使いたいから」など他の活動に人生の時間を使いたいからと回答しており、「独立して事業を立ち上げたい」といったより前進する生き方は見られなかった。

筆者はFIREをまったく想定していなかったが30代半ばで脱サラして、気がつけばFIREしていた。「生きていくために仕方がなく働く」というより、何もやることがなくヒマなのはとても辛いし、今の仕事が好きなので毎日忙しく働いている。FIREを目指す人を批判するまったく意図はないし、個々人好きに生きればいいが自身の経験から「FIREを目指す人生は本当に幸福なのか?」について個人的見解を述べたい。

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「労働=罰」という価値観

昨今、SNSを見ているとあたかも「労働は悪」と言わんばかりの意見をよく見る。「国が少子高齢化是正を狙うのは、奴隷となる働き手を増やしたいから」とか「社畜人生は辛いから早く卒業したい」といった投稿である。

確かに合わない仕事、合わない人間関係が存在することはよく分かる。筆者は不器用だったことから、平均以上にサラリーマンは苦労してしまい、クビにされたり叱られて憂鬱で嫌な思いはたくさんしてきた。

だからといって「もう仕事をしたくない。仕事をやめたい」と思ったことはない。なぜなら、職場や仕事内容が変われば、労働はあっさりと地獄から天国にコロッと変わることを知っていたからだ。

サラリーマンの頃、上司と馬が合わなくて嫌われてしまい、きつい仕事を割り当てられたり、悪く評価をつけられたりという時期があった。この時期は毎日朝起きると本当に憂鬱だったことを覚えている。しかし、社内改革で同じオフィス、同じ仕事で上司や同僚がガラッと入れ替わったらそこから一変した。

新しい上司はフレンドリーで優しく、楽しい人柄で積極的に仕事で挑戦のチャンスをくれた。自分も調子に乗ってあれこれ提案をしたら「いいね!ぜひやってみなさい」と背中を押してもらって挑戦したり、毎年最高の人事評価をつけてもらって昇給もできた。こうなると毎日会社にいくのが楽しくなった。

また、独立するとサラリーマンの頃よりさらに仕事の自由度、裁量権、責任が増えたことでますます楽しくなった。自分は未だに映画やゲームが大好きだが、時々遊んでいる最中に急に仕事のアイデアが降臨する瞬間がある。そんな時は直ちに遊ぶのを止めて、仕事に切り替えてアイデアを形にするために喜んで労働をする。正直、世にある多くの遊びより、仕事の方が圧倒的に楽しいと感じてしまうのだ。

仕事は長いヒマという人類最大の敵を攻略するために考案された、考えうる限り最もクリエイティブで有意義かつ楽しいものなのだ。これを人生から早々に捨ててしまうのはもったいない。仕事が楽しくないなら、やめるのではなく自分に合う仕事に変えれば良いのにと思う。

この世で最も楽しい活動とは?

人間として生を受け、考えうる最高に楽しい活動がある。それは「育成」というゲームである。

仕事は事業を育てるゲーム。
投資は資産を育てるゲーム。
育児は自分の分身を育てるゲーム。
教育は自分の能力を育てるゲーム。

その他、推し活でもギャンブルでも多くの人が夢中になって盛り上がっている活動の全ては手段は違えど、行き着く先はすべて何かの育成するゲームという本質がある。

FIREをすると何が育成できるか?それは資産である。仮にある程度の蓄財に成功して仕事を一切したくないとなれば、資産を取り崩しながら増やすというプラスとマイナスを引き合う生き方になる。

だが一度思わぬ不況に襲われてしまうと、大きくマイナスが出る。それにもかかわらず、生きていく上で必要な経費は継続してマイナスが続く。このように育成と真逆の状況が続く人生は苦しいと感じるのではないだろうか。

「FIREで資産運用!」という話は、仕事をやめずに続けながらでもできることである。むしろ、仕事をすればビジネスや、利害関係者との人間関係も育成できるので楽しさは倍増する。

労働しない人生は確かに楽だろう。だが「楽=楽しい」ではない。体が楽なだけで、何の達成感もなく、何もやりたいことや欲しいものがなく、誰からも必要とされず、誰からも愛されない。たった一度きりの人生をそのように使ってしまって後悔しない人は少ないだろう。後悔しない人がいるとすれば、無人島で一生一人暮らしでも楽しく生きられる特殊能力の持ち主だけだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。