日本だけ物価が安くなるわけがない

訪日外国人客が1-9月の累計で2688万人となりこのままでいけば年間トータルは3500万人ペースとなり過去最高だった2019年の3188万人を上回ることが確実となっています。訪日外国人が多い理由は日本再発見があるのですが、本音を聞くと「物価、安いらしい」という声が聞こえてきます。事実、北米でも欧州でも旅行は金がかかるとして敬遠されてきました。そのため、旅行業界は必死の挽回策に追われています。(つまり北米の旅行も飲食も価格が下がってきているということです。)

さて、そんな日本の安いはずの物価もこの1年半、じわじわと上昇し、庶民からは「高いわー」の声が止まらなくなりました。

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不思議な話では私の日本法人で所有する借地権の地主が突然、賃料引き上げの要求をしてきました。借地権の賃料の引き上げ要求はあまり聞いたことがないのでなぜ、と聞けば固定資産税が上がりすぎてやっていられないと。基本的に借地権ビジネスなんて地主にとって間尺に合わずこれほど借り手に有利な契約形態はないことを知っていたので私は借地権を積極的に取り込んできました。必ず地主はどこかで詰まり、取引が生じるだろうと。詳細は述べませんが、地主が泣いてくるのはある程度計算のうちでしたのでここから取引をさせて頂く予定です。

建設業界の話としては中野サンプラザ跡地開発の頓挫があります。同跡地に61階建ての建物を中心とする再開発を行い、その総事業費を2639億円と見積もります。ところが、その算出2か月後にデベロッパーの野村不動産が「それでは900億円不足」と申し出たことで事業そのものが止まってしまいました。昨今の日本国内の建設物価の高騰はすさまじいのですが、資材価格の高騰より職人が全然足りないことが起因だとみています。留まるところを知らないビル新築ラッシュや都市再開発に対してかつて3Kと言われた建設系の職人は不人気業種でその従事者は減る一方、しかも高齢者に偏っているため、今後、加速度的に職人が減ることになり、いずれ日本では「建物が建てられない」事態が起きるとみています。

日本経済を俯瞰するにおいて私の懸念は労働のミスマッチが今後さらに深刻な事態になるだろうという点です。大学全入時代で子供たちは泥臭い生活を送ったことはなく、マンションに住み近代的で快適な生活をしていると当然、仕事はオフィスワークがイメージされてしまいます。それもできればテクノロジーが絡むような仕事が良いと考え、筋肉系の業種はどうしても避けられてしまいます。このミスマッチを補填するのに手っ取り早いのは外国人労働者なのですが、日本の物価水準=賃金水準が低いため、外国人労働者も「稼ぎに行くなら日本じゃないよね」になるのです。

また、外国人労働者がお嫌いな方がいるのは知っています。しかし残念ながら日本において200万人を優に超える外国人労働者はエントリーレベルの業種、例えばコンビニや飲食店の店員、農業、建設業の補助業務などを支えている重要な労働力となっているのです。今の大学生にバイトで居酒屋で働かないかといっても「たるい!」と言われるのが落ちでしょう。これは北米でエントリーレベルの仕事を白人がやらなくなり、それをアジア人やヒスパニック系が補っていったのとまったく同じ構図でもはや好き嫌いを言っていられない時代になったのです。

となれば日本の物価は必然的に上昇する、これが私の描くシナリオです。石破氏が最低賃金1500円を20年代に、と述べ実現不可能だと批判されました。私もそう申し上げました。一方で一部業種の人材不足は経営の維持ができないほどになる可能性があり、大量の廃業、倒産、統合、買収が起きないっとも限りません。その場合、業界や業種、事業を維持するために破格の賃金を提示するところが出てくるようになるはずです。私はファーストフードや居酒屋の時給が2000円を超える日は遠くないとみています。

では時給2000円を払おうという会社と法定上の最低賃金1000円強との違いは何か、といえば仕事ができる人だけが採用されるということです。誰でも2000円ではないのです。とすれば石破氏のいう最低時給1500円は考え方次第ではそれに近づけることは可能なのです。労働者の質を上げ、労働哲学をしっかり理解してもらうことです。既に都市部で起きている時給の実勢と最低賃金とのギャップは期待労働力の差ということになります。「ちゃんと働いてくれれば2000円、だめなら即クビ」であります。

日銀が利上げできるかどうかという議論があります。私が外から見る限り政治家やメディアが上げさせないよう必死でけん制している、そんな風に見えるのです。そんなゲームに高じているうちは良いでしょう。日本の物価は今後、着実に2-3%以上上がっていき、労働力不足が懸念される業種では5%以上の突然の高騰をいつかは覚悟せざるを得なくなるでしょう。金利は上げざるを得ない状態になるも労働力がないという根本的問題に対処療法しかないというのが私の見る2030年に向かう日本であります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月1日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。