ドナルド・トランプ大統領伝記物語④:パリ協定から離脱

拙著『アメリカ大統領史100の真実と嘘』(扶桑社新書)に少し手を加えた「ドナルド・トランプ大統領伝記物語」第3回は、3年目である2019年の出来事だ。

脱オバマ作戦は、「地球温暖化防止のためのパリ協定」からの離脱という点においても貫徹された。そもそもパリ協定への参加は、三権分立を無視するものであり、条約であれば上院の批准が必要なため、努力目標に留め条約扱いにせず、上院が批准するはずがない内容の協定に調印したのだ。

そのため、政権が代わればアメリカが尊重しないことは織り込み済みだったが、離脱まで実行するのはトランプ大統領ならではだ。いずれにせよ、アメリカは2017年6月に脱退方針を表明しており、11月4日に離脱を国連に正式通告した。(注:2021年2月にバイデン政権のもとで復帰)

パリ協定について声明を発表するトランプ大統領 ホワイトハウス動画より

貿易を巡る米中対立は、双方が次々と制裁や関税引き上げを発動し、目まぐるしく動いたが、これは別項目としたい。

シリアではアメリカ軍の撤退を巡って迷走があったものの、引き上げという基調は変わらず、トルコのエルドゥアン大統領がISIL掃討の功労者であるクルド人を攻撃するのも放置したため、この地域でのアメリカの威信は損なわれた。

トランプ大統領はINF(中距離核戦力)全廃条約から離脱し、8月2日に失効した。ロシアの条約違反があったが、中国が対象外であるため、条約の意味が失われていたのも事実だ。

第2回の米朝首脳会談がハノイで開かれたが、寧辺周辺の施設廃棄のみで経済制裁の全面解除を期待していた北朝鮮側の甘い見通しは実現せず、物別れに終わった。その後、大阪でのG20の後、板門店で第3回の会談が開かれ、いちおうの修復はされたが、進展はなかった。結局、韓国の文在寅大統領が米朝双方に甘い見通しを語り、それに米朝が期待を寄せたものの、それがばれて文在寅は金正恩の妹である金与正から罵声を浴びる結果となった(2020年)。

板門店で第3回の会談 Wikipediaより

しかし、トランプとしては、北が自身の任期中に核実験やICBMのアメリカに近い場所への発射をしない限り、容認できる範囲だと考えているようだが、それでは経済制裁は解除できない。

メキシコとは、壁を建てると脅しつつも、NAFTAに代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が成立し、2020年7月から新体制に移行した。トランプとしては、二国を脅して有利に改定し、メキシコを動かして難民を送り込ませないようにした点で政治的な得点と言える。

USMCAに署名するトランプ大統領(署名は2018年11月)

『アメリカ大統領史100の真実と嘘』(扶桑社新書)