セブンイレブンのMBO提案に思うこと:ここを外すと凋落のサイクルに

セブンイレブンの買収案件は過去数回にわたり、取り上げさせていただきました。今回、セブンに対して創業家による買収提案があった為、私見のアップデートをさせて頂きたいと思います。

アメリカのセブンイレブンの店舗 セブンイレブンHPより

セブン&アイへのカナダ、アリマンタシォン クシュタール社による買収提案で現在その提案額は約7兆円まで引き上げられ、セブンの第三者委員会で検討中とされていました。そこに創業家の伊藤興業とセブンの副社長である伊藤順朗代表取締役副社長からMBOが提案されました。その金額9兆円。

正直、この提案は頂けません。成立する可能性も微妙です。クシュタール社より買収提案があった際、私はセブンへの取引関係から三井物産が白馬の騎士になることがあり得るかもしれない、と申し上げたのですが、その後、物産のCFOが同社の成長のための資金枠が5兆円程度と述べていたのでこれで物産の線は消えたなとみていました。今回、その代わり、伊藤忠との組み合わせで買収シンジケーションを組成するという話です。

私がこの提案にネガティブなのは買収そのものが伊藤家の欲求を満足させる以外の何物でもなく、セブンというグループ全体の利益につながるとは思えないのです。クシュタール社が7兆円に買収金額を引き上げた後も株価はそれにさや寄せすることなく、買収額の2割ほど低い金額で推移していました。これはTOBを企てたケースとしては珍しいのですが、その解釈は2つあり、一つはクシュタール社による買収は非現実的と取ったか、セブンの現在の企業価値はどう見てもそれほどない、とみるかであります。クシュタール社が買収するなら企業価値に株価がリンクする必要はないのでたぶん、実現性に疑問視をつけていたのでしょう。

ところが昨日、MBOを発表した時、株価は急騰しました。日本チームによる買収なら可能性があるのだろうと市場は見たわけです。

しかし、私が指摘したいのはセブンの経営陣による経営能力は正直、革新的なことは期待できないのです。鈴木敏文氏が率いた頃のセブンは破竹の勢いとコンビニ戦争による圧倒的強みを見せました。また先駆者利益も大いにあったと思います。ただ、企業戦略には栄枯盛衰があり、鈴木氏の戦略であったエリアを絞って集中的出店を図るドミナント戦略の賞味期限はそもそも長いものではありません。せいぜい10年ぐらいでその間に次の戦略を打ち出し、更に高いレベルに磨き上げることでドミナント戦略の趣旨である地域要塞型ビジネスを圧倒的なレベルにすることが可能でした。が、現経営陣にバトンが渡された時点でそれは継続されず、むしろドミナント戦略は今となっては負の遺産となりかねない状況にあるのです。

私がクシュタール社に期待したのは日本的なビジネス思想は同社にはないのでセブンのコアとなる日本独特のサービス提供についてはセブンの現状から大きく変えることなく、むしろ、アメリカのコンビニ事業の刷新、及び、サークルKやクシュタールなどのブランドネームを業態ごとにブランド化し、それぞれ特徴あるコンビニの売り場形態にすることにありました。

例えば大手ホテルチェーンはブランドネームを5つ以上持っています。顧客はそれぞれのブランドネームでそれぞれのホテルのサービス度がわかっているので様々な顧客の期待や要望を受け入れることができるのです。それを日本のコンビニで展開するなら24時間営業を含む利便性型、価格的にスーパーと競合できるタイプ、駅のキオスクやアメリカのガソリンスタンドのようなミニコンビニで商品の種類が限定されている中で高い利益率と少品種販売効率追求を目指すタイプといった具合にブランド化はいくらでもできるのです。

それなのにセブンはなんでもセブンで全くそのようなブランディング戦略を取らなかったのは北米でビジネスをする私からすれば「なんでだろう?」の一言なのです。日本のコンビニはレジで調理品を扱うのが当たり前となっていますが、それがすべての店舗で本当に必要なのか考える時期にあると思うのです。

それらがうまく展開できなかった現経営陣が日本史上最高額のMBOを実施するのはにわかに信じられないし、もしもそれで銀行団が乗るというならいったいどのような貸し付け資金回収計画を持っているのか聞いてみたいものです。井坂社長が30年までに現在のグループ売上17兆円超を30兆円にすると言っていますが、私は売り上げ至上主義ではなく、利益を上げる経営戦略がより重要だと考えています。

私はカナダでセブンに入ることはほとんどありません。理由は日本のセブンを知っている者にとってあれはセブンだとは到底思えないからです。

アパが2016年にバンクーバーを中心とするホテルチェーンを買収しました。買収のいきさつは知っているのですが、ここでは書けません。ただ、正直、元谷夫婦が当地に来た時本気であのチェーンがアパのイメージになると思って買収したとは思えず、単にgood dealだったから買収したとしか思えないのです。現在もアパの名前はついていますが、アパとは全く違うスタイルの北米でよくあるホテルです。直近の日経ビジネスで元谷会長が「カナダのホテルチェーン、コースト・ホテルズを16年に買収しましたが、やっぱりできる限りは日本で事業を拡大したいと考えています。… 海外ではそんなに一生懸命増やそうとしてはいないです。そういう話があれば伺いましょうというくらいです」なのです。この意味は元谷氏はアパのブランド戦略には長けているけれど毛色の違うものは手に負えないと言っているのも同然なのです。

セブンほど企業が大きくなり、海外比重が大きくなると国内経営者のチカラではどうにもならないところまで来ているともいえるのです。ここを外すとセブンは伊藤興業と共に凋落のサイクルに入ってしまうと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月14日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。