「クリスマス市場のシーズンだ」と叫べば、「世界では至るところで戦争や紛争が起きている。なんと呑気なことをいっているのか」といわれそうだが、カレンダーが11月に入れば、欧州では世界で戦争が起き、テロ事件が頻繁に発生していたとしても、クリスマス・シーズンに入る。キリスト教社会ではクリスマス・シーズンこそ最大のイベントだ。戦争をしている紛争勢力も時には「クリスマス休戦」を考え出す。それほど、クリスマス・シーズンは宗派、民族を超え、心が自然と踊り出す季節だ。といえば、少々大げさかもしれないが、今年も「クリスマス市場」について一本コラムをまとめてみた。
音楽の都ウィーンでは観光地の1区のケルンテン通りやショッピングストリートのマリアヒルファー通りでは既に華やかなイルミネーションが灯されているが、今月15日にはウィーン市庁舎前広場で欧州最大のクリスマス市場がオープンした。ウィーンにはクリスマス市場が大小20カ所余りあるが、市庁舎前広場のクリスマス市場は最大で12月26日まで開催される。ちなみに、シエーンブルン宮殿前のクリスマス市場は既に11月8日にオープンされた。
米CNNによると、ウィーンの市庁舎前広場の市場は世界で最も美しいという。クリスマス市場には99店舗が出店し、市場の横にはアイススケート場も設置されている、といった具合だ。ウィーン市民の10人に8人はこのシーズン期間に一度はウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場に足を向ける。主催者側によると、昨年330万人が訪れている。そのうち、4分の1は海外からのゲストだという。
市場にはクリスマスの飾りやお菓子などの店の屋台が出て、訪れる市民や観光客を誘う。油で揚げたランゴシュ、そしてクリスマス市場では欠かせないプンシュ(ワインやラム酒に砂糖やシナモンを混ぜて温めた飲み物)のスタンドからはシナモンの香りが漂う。人々は友人や家族とプンシュを飲みながらクリスマス前の雰囲気を楽しむ。市場のスタンドでは1杯のプンシュは7ユーロ50セント(約1200円相当)という。高いにもかかわらず、市場を訪れた市民はプンシュを一杯飲まないで家に帰ることは出来ない。ましてや、子供連れとなれば、子供用プンシュ(アルコール抜き)を買わないで市場を後にすることは絶対できないだろう。
クリスマスのプレゼントとしては、女性は衣服、香水など化粧用品が多く、男性も衣服類への需要が増えてきている。また、男女の区別なく、電気製品への関心が高い。オーストリアの消費組合によると、昨年のクリスマス期間の総売上げ高は約4億ユーロだったが、今年は前年比で2000万ユーロほど減るものと予想されている。「国民経済が良くないこともあって、消費より節約する傾向が出てきている」という。ウィーン市民はクリスマ用プレゼントに平均281ユーロ使うという。
ところで、なぜ人はクリスマス・シーズンを楽しみにし、プレゼントを交換したり、市場を訪れプンシュを飲むのだろうか。クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝うというのが理由だが、教会に通うキリスト信者の数は年々少なくなっている。毎年、考えるテーマだ。人間は多くの人々が集まる場所が恋しいのだろうか。口の悪い人は「クリスマス市場」ではなく、「ウインター市場」と呼ぶべきだというのだ。
一方、目を世界に向けると、イエスの生誕の地、中東では戦争が続いている。多数のイスラエル人、パレスチナ人が犠牲となっている。ウクライナでもロシア軍との戦争が継続されている。戦争で息子、夫を失った人々は今年のクリスマスをどのように過ごすのだろうか。
クリスマス市場のイルミネーションの世界と砲弾・ミサイルが飛び交う戦場との間には大きなコントラストがある。それは単に「戦争と平和」の対比というより、「幻想と現実」のコントラストだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。