ガルシア・ルナ氏の米国での存在が明らかになったのは交通違反から
ガルシア・ルナ氏はメキシコのカルデロン元大統領の政権が終了した時点で、目立つことなく米国へ移住した。ところが、2015年11月に彼は信号無視の違反で警察に捕まり、彼の存在が米国で明るみになった。
それをラテン系のテレビ局ウニビシオンが取り上げた。というのも、彼の6年間の閣僚としての収入に比較して過分の豪邸に住んで居るということに注目が集まったからだ。
丁度その時、シナロアのリーダーチャポ・グスマン氏の公判中で、シナロアの元メンバーだったヘスス・サンバダ氏は証言の中で、ガルシア・ルナ氏の名前を言及したのである。それ以来、DEAでは彼についての捜査を開始。その結果、2019年12月に彼は遂に逮捕されるという事態になったのである。そして、今回の公判で38年の禁固刑と罰金200万ドルという判決が下されたのである。
米国へ麻薬を密入させる中継地であったメキシコ
麻薬の消費が最も多いとされている米国。そこと国境を接しているメキシコは当初南米のコロンビアなどから麻薬を米国に密入させるのに中継国として存在していた。その後、メキシコでも麻薬が栽培され、また加工もされるようになって、メキシコにはカルテル(Cártel)と呼ばれる麻薬組織が急成長した。
その成長は著しく、カルテルの数も増え、それに伴ってその下請け的な存在の暴力グループも増えて犯罪の数も急増。この犯罪の急増に真正面から戦いを挑んだのがフェリペ・カルデロン元大統領(2006-2012)であった。
彼はカルテルを取り締まる公安治安相にヘナロ・ガルシア・ルナ氏を起用した。ガルシア・ルナ氏はカルデロン大統領の前任者であったビセンテ・フォックス元大統領(2000-2006)の政権時に連邦検査総局(FGR)そして連邦調査局(AFI)の局長を務めていた。その時点からガルシア・ルナ氏にはカルテルとの繋がりがあるという噂があった。
カルテルから巨額の賄賂をもらっていた公安相ガルシア・ルナ
ガルシア・ルナ氏の配下には警察官ら4万人の職員がいた。彼はカルデロン元大統領の手となり足となってカルテルの撲滅に取り組んだ。カルテルの撲滅と言っても、実際にカルデロン元大統領が狙っていたのは、強力なカルテルにだけ裏では味方し、その強力なカルテルから他のカルテルについての情報を貰ってカルテルの取り締まりを厳しくしていくことであった。
そこで、カルデロン元大統領が当初味方にしたのが二つのカルテル、シナロア(Sinaloa)とベルトラン・レイバ(Beltran Leyva)であった。この二つのカルテルに対して、彼らの米国への麻薬の密輸を政府は見ないふりをして容易にさせた。その一方で、彼らから情報を貰った他のカルテルに対しては警察や軍隊を派遣して交戦した。
その後、時が経過すると、この二つのカルテル同士で縄張り争いなどで戦う羽目になった。最終的に政府はシナロアを味方にするのである。だから、シナロアは政府による背後からの支援があり急成長したというわけである。
この仲介をやっていたのが元公安相のガルシア・ルナ氏であった。彼は多額の賄賂をシナロアから受け取り、その代わりにシナロアの違法行為を容易にさせたり、見て見ぬふりをしていたというわけである。
シナロアの元メンバーの法廷での証言によると、シナロアが米国内に数十トンのコカインを密入国させるのに2005年から2007年までに6億ドルの現金を彼に渡したと供述している。これは一つの例で、ガルシア・ルナ氏は多額の賄賂をシナロアとベルトゥラン・レイバから受け取っていた。
彼はあたかも法を守る正義の味方であるかのようにカルテルと戦う姿をテレビのレポートで取り上げさせるような工作もした。麻薬で苦しむ米国では、彼のことが話題になり、麻薬取締局(DEA)も彼に協力の手を差し伸べていた時期もあった。
ところが、その裏ではカルテルのメンバーに警察の制服を着させてライバルのカルテルの取り締まりに参加させたこともあった。それを明らかにしたのはセルヒオ・ビリャレアル氏というカルテルのメンバーのひとりだ。彼はまたガルシア・ルナ氏とロペス・オブラドール前大統領にも賄賂を渡したと証言している。
フェリペ・カルデロン元大統領もカルテルと繋がっていた
ガルシア・ルナ氏が仕えたフェリペ・カルデロン元大統領についての言及は法廷での彼の証言の中では一切なかった。というのも、ベルトゥラン・レイバのメンバーであったサンドゥラ・アビラ・レイバ氏がジャーナリストのアナベル・ヘルナンデス氏との会見の中で、フェリペ・カルデロン元大統領もカルテルと強い絆を持っていたと発言しているのにだ。
ガルシア・ルナ氏はカルデロン元大統領の閣僚として6年間カルテルの取り締まりをやっていた。因みに、この6年間の死者は25万人にも及んだ。
カルデロン元大統領がカルテルとの関係がなかったということはあり得ない。しかし、ガルシア・ルナ氏を裁く法廷で、彼はカルデロン元大統領のことについては一切言及していないのだ。何故?これは筆者の憶測あるが、沈黙を守っていれば、彼の家族の生活保障はするという密約があるのではないかと推測している。