「サブウェイ」の味はワタミが決める

外食大手ワタミは、サンドイッチチェーン「サブウェイ」と契約し、国内でチェーン展開すると発表した。同時に、日本法人「日本サブウェイ」を完全子会社化する。ワタミ代表取締役の渡邉美樹氏は、10年後に1,000店舗、将来的に3,000店舗を目指すと言う。

この言い回しには覚えがある。そう。すしチェーン「すしの和」立ち上げ時の発表会見だ。2021年12月の会見で語った目標は「今後5年で100店舗」だった。3年経った現在「2店舗」にとどまっている。

唐揚げチェーン「から揚げの天才」もそう。22年8月の取材記事で「将来的には1,000店舗」と語ったが、24年6月時点で「17店舗」。今回のサブウェイ参入を機に撤退するという。

韓国風フライト゛チキンチェーン「bb.qオリーブチキンカフェ」もそう。こちらも「将来は1,000店舗」と語るも、24年6月時点で「19店舗」にとどまっている。

「サブウェイ3,000店舗」は有言実行か。それとも大言壮語か。

サブウェイの店舗に行って考えてみようではないか。

日本サブウェイ合同会社 プレスリリースより

注文段階で離脱する

はて? どうやって注文すればいい? カウンターらしきものがない。会計レジに人がいない。具材が並ぶショーケースの端に人がいる。どうやら、この人に注文するらしい。

「ローストビーフのレギュラーサイズをください」

これだけでは済まない。パンは4種のどれが良い? 野菜は何を入れる? ドレッシングは何をかける? パンは焼く? それともそのまま? 伝えることが沢山だ。

これを面倒と考えるか。それとも丁寧な対応ととらえるか。前者が顧客層から離脱する。

注文を終えると、調理人の手が動き出す。パンに切れ目を入れ広げる。ローストビーフを並べる。野菜を乗せる。ドレッシングをかける。工程ごとに右から左へスライドし、最後に軽く挟んでラッピング。

この時間を持て余すか。それとも楽しむか。ここでも前者が離脱する。

会計を済ませ席に座り食べてみると……「これはうまい」。さっぱりとしたローストビーフ。パリッとしたレタス。甘味のあるトマト。程よい塩味のドレッシング。これを「毎日店で焼くパン」が引き立てる。食べ終わったときのボリューム感は腹8分といったところ。それもそのはず。カロリーはわずか309キロカロリーしかない。

「物足りない」と不満か。それとも「ヘルシー」と満足か。ここでも前者が離脱する。

残った層がサブウェイファンだ。このファンの数が店舗数に反映される。

筆者撮影

ワタミの出店計画

現在、サブウェイの店舗数は185店※1)。対して、マクドナルドは2,978店。すき家は1,954店。モスバーガーは1,312店。文字通り桁が違う。サブウェイは世界ではファストフード界の「リーダー」だが、日本では「ニッチャー(※)」でしかないのだ。

※ ニッチャー:特定の領域で独自の地位を築いている企業

185店から3,000店へ。ワタミはどのように店舗数を増やそうとしているのか。

ワタミの出店計画では、24年度の目標店舗数は180店。25年度は215店(35店増)、26年度は265店(50店増)、と現実的な目標が続く。だが、27年度以降は、毎年100店ずつ出店し、34年には1,065店に到達させるという「挑戦的」な目標に切り替わっている。

目標達成に必須なのがフランチャイズだ。はたして、フランチャイズ加盟店(フランチャイジー)にとって、サブウェイは魅力的なのか。強みと弱みで考えてみよう。

サブウェイの強み

サブウェイの最大の強みは抜群の知名度だ。全世界で37,000店舗。知らない人はほとんどいない。高い知名度にもかかわらず、国内に185店舗しかないことは、「伸びしろがある」とアピールできる。加盟を検討している事業者にとって大きな魅力だ。

もうひとつの強みは、初期コストが低いことだ。

サブウェイは、調理に火や油を使わない。具材はパンに挟むだけだし、ポテト(コロコロポテト)はオーブンで焼いている。だから、狭くても出店できる。

15~20坪を中心とするが、5坪からの出店も可能。コンビニの店内に出店することさえある。店舗が小さく、出店場所を選ばないから、初期コストが抑えやすい。

公式サイトによると、サブウェイのフランチャイズ加盟時の出資目安は2,425万円。マクドナルドの「最低 3,000万円」(借入ではなく自己資金)と比べ低くなっている。

高い知名度と低いコスト。これがサブウェイの強みだ。

では、弱みは何か?  収益性である。

サブウェイの弱み

サブウェイのロイヤルティは11.5%と、マクドナルドの8.2%に比べかなり高い※2)。月商は400万円※3)とマクドナルドの1,670万円に比べ大幅に少ない。

つまり、初期投資は少なく済むが、ランニングコストが高く、リターンも少ないビジネスモデルといえる。収益性が低い。これが、サブウェイの弱みだ。

強みと弱みを勘案すると、加盟店の急増は難しい。加えて、もうひとつ弱みがある。フランチャイザーである「ワタミ」だ。

フランチャイザーの失言

ワタミの渡邉氏は、サブウェイに強い思い入れがあるようだ。自ら執筆したサブウェイ事業発表記事は、以下の一文で締めくくられている。

サブウェイだけに夢の電車が走り出した

【経営者目線】サブウェイのワタミへ 世界第2位のファストフードチェーン

「先が思いやられる」。サブウェイファンはそう思ったのではないか。

「サブウェイ」のチェーン名称は、地下鉄を意味するものではない。“サブ”はサブマリン、“ウェイ”は流儀。同社の使用しているパンがサブマリン型(潜水艦=サブマリンのような形)であることを意味する“サブ”と、「あなた好みに作る」ということを意味する“ウェイ”を組み合わせたものだ。このことは、サブウェイ公式Xでも解説されているし、数多くの記事でも紹介されている。

渡邉氏は、これからチェーンを展開する企業の経営者であり、ブランドの魅力を訴求していく立場でもある。その人物が、ブランドストーリーを理解していないとも受け取られかねない不適切な発言だったと思う。

氏は、2025年3月期上期の決算説明会で

「これからサブウェイの味は私が決めさせていただきます」

とも語っている。これも、ファンを不安にさせる発言だ。既存のファンを大事にしつつ、じっくり時間をかけてサブウェイを育てて欲しいものだ。

筆者撮影

【脚注】
※1 サブウェイ ウェブサイトの各地域店舗より
※2 ロイヤルティ、広告・宣伝促進費、レントロイヤルティーなどを合計
※3 【サブウェイ 】5坪でも出店できるスモールフォーマットに商機 | ビジネスチャンス

【参考】
ワタミ 決算説明会資料
watami channel|2025年3月期上期 決算説明会
各フランチャイズ募集要項 他