シリア内戦がここに来てまた騒々しいものになってきました。日本では報道はされるも注目度は低く、そもそもシリア内戦の構図がさっぱりわからないというのが現状ではないかと思います。
近年のシリア内戦のきっかけは2011年のアラブの春であります。チュニジアで始まった中東諸国の専制主義から民主主義への転換を求めた動きはシリアでも起き、その激しさは同国の歴史に残るものになったとされます。が、シリアではシリア革命は起きず、政府転覆は起きず、アサド政権がロシアと手を組み、過半を支配することに成功します。
しかしながら同国内の内戦はその後13年経った今でも続いています。政府によるシリア支配地は常時増えてり減ったりしており、2016-17年ごろは3割ぐらいにまで減ってみたり、今回の内戦が始まる前は7割ぐらいに増えていました。つまりこの国はずっと内戦が起きており、同国の全土ベースで見た場合、各地域は誰が支配者なのか刻々と変わっている、そういっても過言ではないと思います。
では反政府派とは誰なのか、これがこのシリア内戦の最もわかりにくいところです。事実、ほとんどのニュースソースは反政府派をrebals (反乱軍、反政府派)と称しそれが誰なのか、明示しているニュースソースは極めて少ないのです。例えばカナダの高級紙グローブアンドメールを見るとハヤット タハリール アル シャームとトルコ世俗派グループの連合派とあります。ハヤットは国際手配されているテログループです。
反政府派はさまざまなグループが一種の国盗りゲームのような形で動いている、そのように私には見えます。基本的には反政府派には西側諸国が支援をしているのですが、例えばISILのようなテロ組織が同国で一時独立宣言を出しましたが、完全なるテロ組織には当然ながら誰も支援はしません。更に世界で最大の国家を持たない民族、クルド族による反政府派もあります。また隣接のトルコはシリア難民に悩まされており、それを根本的に改善するために反政府派を支援し、トルコ自らが侵攻しています。
ではシリア政府はこれに対してどう動くのでしょうか?アサド大統領はロシアとの強い関係を強化します。ただ、個人的には今回はもう少し面倒な事態になるとみています。ロシアはウクライナとの戦争で手一杯なのです。一方、イスラエルとヒズボラの停戦が行われたことでヒズボラはもともとあったシリアでの足場を利用し、イランと共に政府および政府軍を支援し、シリアにおける代理戦争を継続支援する公算は高いと思います。
トランプ大統領は前任期の際、シリアから米軍の撤退を2度表明、2度それを撤回しています。トランプ氏ですらその泥沼からは抜けられませんでした。バイデン政権下で米軍は駐留のみで戦闘はしないという形で27か所程度の場所に約2500人程度の米軍をシリアに置いています。トランプ氏が再度大統領になった時、関与したくないシリア問題に否が応でもつき合わされることになります。
言い換えればウクライナ問題とイスラエル問題は別事象と思われていたのが地理的にもちょうど間にあたり、微妙ながらも関連性ができてきたのがシリア内戦にも見えます。
国際社会は戦争疲れしつつあり、シリア内戦にまで積極的に関与したいとは思っていないでしょう。またフランスをはじめ、欧州のシリアへの関心はトルコ経由であふれだしてくるシリア難民の問題があり、それを食い止めることにあります。
では西側諸国が支援する反政府派が仮に「遅咲きのアラブの春」を引き起こしたとしましょう。果たしてシリアが民主化し、安定化するかといえば個人的にはもっと複雑になるだろうとみています。アサド氏がいなくてもヒズボラはより積極的にその支配権を利用するでしょうし、ISILのような過激派が戻ってくることもあり得ます。それ以上にクルド族としては自国を持ちたいという強い願望のもと、激しい独立運動を展開するはずです。すると反政府派が支配する新しいシリアなど一つもまとまらず、自立もできず、無政府状態が続く可能性の方がはるかに高い気がするのです。
そう考えると逆説的ですがアサド氏の傀儡国家というのも今の今だけを見ればあり、という選択肢も出てきてもおかしくないでしょう。イスラエル問題のしわ寄せがシリアに行ったとも言えるのかもしれません。本件、極めて分かりにくく、またスンニ派とシーア派、更にイスラム原理主義グループも絡みほぼ理解不能というのが私の見立てです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月2日の記事より転載させていただきました。