45歳の独身が狂う説を考える

黒坂岳央です。

数年前から「独身で45歳以降は狂う」という意見が話題になっている。先日、その説に対して下記の通り興味深い投稿がなされた。

投稿にある通り、「自分の幸福を追求する寿命を迎えるため」というものである。思わずポンと膝を打つ深い指摘であり、同時に既婚者でもたとえば子供が巣立った後の「熟練離婚」などで訪れるリスクを示している。その点において誰にでも起こり得る危機であり、あらかじめ考慮しておいて損はないだろう。

※本稿は独身者を下に見る意図はなく、心理的側面を考察する目的で書かれた。個人的な研究と見解をまとめた記録に過ぎない。以上を踏まえて読み進めていただきたい

recep-bg/iStock

自分の幸せ追求は飽きる

人間は誰しも満たされない、持たざる時期はひたすら利己的に自分の幸せばかりを追求するのが普通である。自分を幸せにする手段として友達付き合い、エンタメ消費、SNSを使った承認欲求などがあり、これに時間を使うことで大体30代半ばくらいまで本稿で取り上げる年齢固有の問題が生じることなく過ごせる事が多いのではないだろうか。

ところが途中から変化が訪れる。世にある娯楽や快楽のほとんど体験してしまうと、もうあまりのめり込んでやってみたいことがなくなるのだ。

筆者は好奇心がかなり強く、人並み以上にあれこれ一般公開されている娯楽は経験した。有名なテーマパークもすべて体験したし、高級とされるレストランでの食事、旅行もメインの観光地やホテルもとりあえず納得行くまで一通り試してみた。別に自分は大富豪などというつもりはなく、この程度のことは特段、無理をせずとも誰にでも手が届く範囲である。

さらに自分は漫画、アニメ、ゲームなどサブカルにも相当なお金を使って消費してきたし、ペンタブや音楽などの創作もやってみた。しかし、全体的に娯楽を体験すると「次の休日は丸一日使ってこれを遊ぼう」というものがなくなっていく。今も映画やゲームは好きだが、10代、20代までの熱量とは明確に違う。

そして大抵の場合、承認欲求にも虚しさを迎える日がやってくる。「お金持っているアピール投稿への”いいね”は自分に向けられているものではない」という本質にどうやっても気づいてしまうからだ。そしてそうしたアピールをする投稿主を見てもあまり幸せそうには見えない。

同年代も40代以降に似たような感覚になり、もう海岸線を車で飛ばして夜通し浜辺で語り明かす、みたいな若いこともしなくなる。途中から受け身の娯楽消費が尽きてしまうのだ。

人間関係に救われる

だが45歳になって受け身の娯楽ストックの在庫が尽きてしまっても、尚楽しめるフロンティアはいくつか存在する。それはすなわち、受け身ではなく主体的に取り組める活動である。

人によってその分野は異なる。たとえば勉強や研究だ。先日、たまたま見た有料自習室を利用する人たちにスポットを当てた番組を見たのだが、そこで「趣味で数学を研究している。数学は自分の人生そのもので見返りは求めていない」という人がいた。

これは普通ではないレベルの途方もない熱量の持ち主であり、こうした活動の再現性はない。一般人は人生丸ごとかけて挑戦したいような熱量をそもそも持っていないことがほとんどだからだ。

また、仕事も同じだ。ビジネスで楽に働くならフリーランスや一人社長が選択肢に上がる。仕事は好きなことだけをやり、嫌なことは一切しない。ただただ気楽である。しかし、そうした人の中には途中から会社経営をやりたくなり、あれほど嫌がっていたはずの人材のマネジメントや育成に興味を持ち始める者が現れる。おそらく、自分ひとりで豊かさを追求することに飽きてしまうのだろう。

最後に家庭だ。これは会社経営に近い。給与や報酬は売上、家の家賃や光熱費といった経費を払い、スキルへの投資をして粗利を増やす。子供たちへの教育に投資をして、家族間のコミュニケーションを保つ。正直、その手間は独身とはケタ違いに多い。自分自身、独身の時は自分のことだけを考えていたが、家に帰ると脳内メモリが妻と子供たちのことで占有率100%になる。

だが一見、ただ面倒を背負い込んでいるように思えるこの構図に心が救われている。特に子供たちは自分を頼って来る。おそらく「守りたい、支えたい」という男性ならではの庇護欲も満たされるのだろう。

頼られている以上は、狂っている場合ではなくなる。必死に仕事もするし、体も鍛えて健康を維持するのも人生の課題として真剣に取り組む。おそらく、こうした活動がかなりの気分転換になっている可能性は否定できない。

現在、頑張って取り組めていることのほとんどは支えたい人のためにやっていることばかりである。仮に今、家庭を失えば自分は狂ってしまうだろうということは想像できる。

独身でも一生涯素晴らしい仕事をして社会貢献をしたり、生き生きと楽しい人生を謳歌する人もいれば、既婚者で子供がいても家庭に愛がなく独身の頃より明確に不幸になる人もいる。そのため、人生の幸せが結婚だけで決まるといった一般化は到底出来ない。だが、家庭を持つことで起きる環境変化により、45歳以上の生き方は大きく影響を受ける要素になるということは一考に値するだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。