朝鮮半島の行方、日韓関係への影響:石破首相は「重大な関心」と鷹揚な構え

今、朝鮮半島情勢を占うのはあまりにも難しい、と言わざるを得ません。2つの驚くべき事象、尹錫悦大統領の唐突の非常戒厳とその失敗、そしてシリア、アサド政権崩壊が韓国と北朝鮮にどのように作用するのか、その因子が複雑であるからです。

金正恩総書記 北朝鮮HPより

尹大統領は失脚、逮捕されるとみています。既に韓国与党「国民の力」の韓東勲代表が尹大統領の外交、国政への不関与を発表しています。個人的には与党が強大な権限を持つ韓国大統領の職務を停止させる強制力があるのか不思議なのですが、尹大統領は自分のプランが失敗したことと相方の国防大臣が既に逮捕されていることで悪あがきは出来ないと悟っているのかもしれません。

尹錫悦大統領インスタグラムより

一方、この韓国の状況について金正恩氏は必ずしも両手放しで喜んでいるわけではないようです。デイリーNKによると金氏は「国家の最高権力者による強権発動が国会議員や市民により覆されたこと」がサプライズだったようです。むしろ、非常戒厳で韓国国内が不安定になってくれた方が北朝鮮にとってはありがたかった、だが、それはもろくも失敗し、今後、野党である中道左派の大統領選出が現実的となってしまったのです。事実、北朝鮮は本件に沈黙を守っています。

この2つの恐怖、国家権力者の強権が機能しないこと、そして韓国が議員と市民の近い関係で国内安定化を進めることで北朝鮮の専制国家との対比がより明白になり、その事実が北朝鮮に噂として流布することは金正恩氏にとってはうまくない話でしょう。

そこにもってきて今度はシリアでアサド政権が崩壊、当のアサド氏は既にロシアに逃亡しました。北朝鮮とシリアは近い関係でアサド政権をずっと支持してきただけに金氏としては同胞をなくしてしまったわけです。私から見ればもう一つ、注目すべきは今回のアサド政権崩壊にあたりロシアはほとんど手を出さなかった点です。

これは重要です。なぜなら金氏はプーチン氏と熱い契りを交わしたばかりですが、ロシアの国内事情が許されなければ長年、支援関係にあるような国家が必死にロシアへSOSを送っていたにもかかわらず、放置したことを目の前で見せつけれられたのです。

とすれば北朝鮮に将来何かあった時でもロシアが必ずしも「契り」に基づき支援するかどうかはわからないということです。個人的にはアサド政権が崩壊しそうなことをロシア情報筋は確実につかんでおり、ロシアが足りない戦力を割いてまでシリア政府を支援する価値がないと判断したとみています。

こう見ると朝鮮半島は非常に不安定になりやすい要素があるとみています。

韓国は春頃の大統領選に向けた準備をするとみられていますが、与党「国民の力」から有力な大統領候補者を輩出できるとは思えません。より民意に沿った野党「共に民主党」から選出される公算が高いでしょう。そのプロセスにおいて野党候補者は尹大統領の政策の全てを否定することからスタートします。そして尹大統領の足跡の中で最大の功績の一つである日韓関係の改善について「日本寄りだ!」という声を政治利用する可能性が出てきます。私が懸念するのは韓国は国民性が同調主義にあるので半日と言い始めたら皆がすぐに「そうだ!」と言いかねないのです。

ここでもう一つの未知数としてトランプ氏の対朝鮮半島政策が不明瞭な点です。トランプ氏はロシアに軍隊を送る北朝鮮をどうしたいのか、あるいは米韓の軍事協定に基づく韓国への支援にトランプ氏は再び「もっと金を出せ!」と迫るのか、更には韓国で選出される新しい大統領はトランプ氏とどうすり合わせをするのか、すべてをもって未知数であり、現時点でトランプ氏も考えはまとまっていないと推測します。

とするとお題の一つである日韓関係の目先の行方はどうなるか、であります。世界の潮流をみるとウクライナやガザ地区での戦争、シリア問題、さらには世界各国で不安定化する政治状況から朝鮮半島を安定和平にもっていくのは容易ではないとみるのが正しい気がします。その場合、日韓関係は「仲良しになった」というお友達意識の改善ではなく、朝鮮半島の楔が日本に突き刺さらないよう防衛するという意識を持ち、韓国に橋頭保になってもらわねば困るという位置づけに変わるのではないかとみています。そういう意味では韓国の和平を日本が主導できるかがキーになるかもしれません。石破首相は「重大な関心」と述べていますが、対岸の話という鷹揚な構えではなく、日本として戦略的にどうしたいのか、明白なプランを作るべきではないかと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月10日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。