識者って何だろう?:メディアのコメンテーターが固定化される理由

これから年初にかけてメディアは「25年を占う」と称したネタを振ってくるのですが、これにコメントをするのが「識者」であります。識者とは改めて辞書を引くと「物事の正しい判断力を持っている人。見識のある人。有識者」(デジタル大辞泉)とあり、他の辞書も大体似たような説明になっています。

識者の範疇でよく出てくるのが〇〇大学教授。日本には大学教授と称する方が7万人もおり、文科省のデータでは大学教員数総数では19万人もいるとされます。ただ、兼任している方が概ね半数いるようなので実態は教員数では10万人、教授で3-4万人ぐらいなのでしょうか?日本にある大学数が800程度ですから一大学あたり平均では教授が44人、教員総数は125人となります。ちょっと多い気がします。多分、名誉教授と称する実質引退された先生も含まれているような気がします。また私の知るある准教授は4か所ぐらい兼務しているので実態はこれよりはるかに少ないのでしょう。

さて、私も最近は名刺を交換するのはビジネスの方より大学教授の方が多いぐらいですし、様々な大学教授の著書を拝読させて頂いておりますが、考え方は非常に広範だと思います。つまり右から左までずらりであり、どの「識者」の意見を聞くか次第で私の理解度には一定の色がつくし、識者のコメントを載せるメディアの記事のトーンにも様々な偏りが出来ます。

99%の読者にとって大学教授という名前だけで「偉い人」という先入観を持ち、まさに辞書にある通り「正しい判断力と見識を備えた方」になります。政府などがよく「有識者会議」をやりますが、これも何をもって有識者なのかよくわからないのです。基本的には政府にとってやりやすい方をお招きするというのが私の知る限りのやり方。言い換えればいざ、有識者会議を設定します、と言われたら関連省庁の官僚が「あの先生とこの先生がいい。例の先生だけは絶対に呼ぶな」といった取捨選択をしているはずです。

当然メディアも同じです。例えばご本人が言っているので間違いないのでしょうけど、高橋洋一さんは日経新聞など主要メディアには出ないのです。せいぜい夕刊フジ経由で産経に時々出るぐらい。困ったことに官僚にしろ、メディアにしろ、いわゆる引き継ぎ書で〇✕リストを作ってあり、新任の人は前任からの引継ぎはしっかり守るので新風がないとも言えます。思うに主要メディア受けするのは事実を客観的に分析するだけのコメンテーター。高橋氏にしろ、ひろゆき氏や堀江貴文氏にしろボイスに強烈な色がついているのでコメントをもらいにくいということなのでしょう。

日経新聞のThink欄にコメントを書く方は有識者ということだと思いますが、ほぼ毎回、似た顔ぶれであります。主体は日経の編集委員、そしてあとは日経でよく参照される有識者たち。逆に言うと付き合い範囲が知れているともいえるのです。私が日経ビジネスを25年ぐらい毎週欠かさず読んでいると申し上げていますが、これも取材される企業がある程度決まっているのです。「またこの会社の特集かぁ」と残念なことはしばしばです。切り口に新味が全然ないのです。記者はもっと足で稼がなくては駄目でしょうね。

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では識者は本当に正しいのか、と言えば私の解釈は「一定以上の基礎知識および専門分野の深い知識を持つがその解釈は識者の自由であり、読み手がその解釈に賛同するかどうかも別次元」だと考えます。「国際学会等でどれだけ議論をして認知されたか」が本当の実力の尺度の一つかもしれません。もちろん国際学会で評価を受けたからと言ってそれが必ずしも正ではないとも申し上げます。

お前の言うことを聞いているといったい誰の話を信じたらよいかわからないじゃないか、と思われるでしょう。それは皆さんが考えるしかないのです。最終の評価は皆さんが行えばよいのです。たとえばこのブログでは毎日たくさんのコメントを頂きます。そして多くの方はしっかりした考えを提示してくださっています。私は識者ではなく、単に議論の話題を提供しているだけですが、皆さんの博識ぶりにただただ「よくご存じで」と申し上げるしかないのです。

為替や株式の予想では証券会社や企業のトップが識者として出てきます。それらはまず当たらないし、聞く価値はありません。理由は企業のトップは実務に長けているとは思えず、政治的にコメントをするからです。現状のことは課長クラスが一番わかっています。また現状を踏まえた未来を予測するのは部長クラスが最適だと思います。

大学の先生でも名誉教授とか大教授になると自分の打ち立てた理論に固執するので考えがやや古い時があります。その場合、准教授クラスの方がより柔軟な知識と理解を持っていることも多いのです。

私が言いたいのは「人の言うなりにならない」「話を鵜吞みにしない」という点です。特にSNSの時代になり短文形式の断片的な情報が飛び交う中で「〇〇さんがこう言っている」という意見があたかも正解のような形で一気に広がることに不安を感じているのです。テレビやラジオなどで有名人が喋る内容は時として誇張したりブラフの時もあります。我々はそれをフィルターにかける癖をつけなければならないのに時間が無いからか、「〇〇さんはこう言っている、だからこれはこうである」という話には気をつけなければならないと思うのであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月25日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。