年頭所感

明けましてお目出度う御座います。SBIグループ代表の北尾です。

吉例に従い、今年の干支から見た年相について考察しましょう。

今年の干支は乙巳(いつし、きのとみ)であります。

先ず、乙と巳のそれぞれの字義について触れておきます。

乙ですが、中国の後漢時代の許慎の『説文解字』(以後略して『説文』)という最古の漢字辞典には、「春に草木、冤曲(えんきょく)して出ずるも、陰気なお強く、その出ずること乙乙(いついつ)たるを象(かたど)る」とあります。つまり、前年に出た草木の芽が外の寒さや障害にあって曲がりくねっている状態を象っています。

乙の字義に関する他の説としては、両端に刃のある曲刀の形に象るとか、その小曲刀による屈曲してのびた彫り目であるとかいった説もあります。

いずれにせよ、曲がるというのが基本の字義であるのは疑いないようである。

次に巳であります。巳は十二支の六番目、動物では蛇に配されます。

『説文』には「四月陽気すでに出、陰気すでにかくれ、万物あらわれ、彣彰(ぶんしょう:美しい色どり)をなす。故に巳、蛇となる」とあります。つまり巳は冬眠していた蛇が地表に這い出す形です。即ち、これまでの冬眠生活を終えるということで巳(乙)は巳(い)に通じ「止(や)む」という義を持っています。また同時に新しい活動を始めるという意を含んでいます。後漢の班固による『白虎通義』には「巳は物必ず起こるなり」とあり、これまで伏在していた色々な問題や、人物が次々と表面に出てきて、様々な活動を行うことを表示しています。ですから、巳は物事が一旦終結し、新たな出発を始めるという意を含んでいます。

さらに、母胎内で胎児の頭と胴のできかけた形を象ったものであるとし、新たな生命の誕生との見解もあります。

干支と密接に結びついている陰陽五行説(世の中のあらゆるものは木・火・土・金・水の五元素と陰陽で構成されているという説)で今年の年相を見ておきましょう。

乙は「木の陰」、巳は「火の陰」であり、今年の干支は木生火(もくしょうか)という相生関係の組み合わせです。木は木擦(こす)り摩擦熱により火を生じる関係で、さらに燃えて、火力を強める働きがあります。だから、起こる変化は非常に大きなものになるのです。

以上の考察から、今年の年相を私流にまとめるとキーワードは「けり」をつける、「けじめ」をつける年ということになります。どんなに外界の抵抗が強くても、不撓不屈の精神で「けじめ」や「けり」をつけるべき事柄をやり抜かなければなりません。ありきたりの意気地のない、だらしない誤魔化しの生活に「けり」をつけ、溌剌として勇猛果敢に諸々の事柄に雄々しく処していかなければならないのです。

乙巳は、六十干支の中でも、大きな変革に繋がる極めて大事な特別な組み合わせで容易ならざる年であり、今年様々な事柄で「けり」や「けじめ」をつけるべきことをうまく処理出来るかで今後の運命が左右されるといっても過言ではないです。

国の内外の歴史の事実に徴すると私が前記したことがよく理解出来ると思います。

ずっと過去の乙巳の年を遡って象徴的な事例を拾いましょう。

<二八五年>
・ローマ帝国の分割統治が始まる。

<六四五年>
・有名な大化改の改新です。中大兄皇子や中臣鎌足らは、天皇を中心とする中央集権国家の建設を目指し、蘇我入鹿を宮中で暗殺し、軽皇子(かるのみこ)が即位して孝徳天皇となる。旧来の因習を廃して飛鳥時代に「けり」をつけた。

<一一八五年>
・壇の浦で栄華を誇った平家一門が滅亡して、源氏が鎌倉幕府の政治体制を確立していく。

<一五四五年>
・トリエント公会議が開会。プロテスタント諸教会はカトリック教会と分離。

<一六〇五年>
・徳川家康が征夷大将軍を辞退し、秀忠が二代将軍に就任。実質的に戦国時代の終焉を迎えた。

<一八四五年>
・水野忠邦が老中を辞職して、天保の改革が終わった。

<一九〇五年>
・日露講和条約(ポーツマス条約)が結ばれ、前年に開戦した日露戦争に「けり」をつけた。
・第一次ロシア革命(ロシア帝国ロマノフ朝の打倒を掲げた民衆蜂起による革命)の勃発

<一九六五年>
・いざなぎ景気と呼ばれる11月から57カ月続いた好景気がスタート
・名神高速道路が全線開通
・日韓基本条約が調印され、国交正常化へ。
・万博が大阪開催に正式決定。
・朝永振一郎博士のノーベル物理学賞受賞。
・東海村の原子力発電所が送電を開始。
・米軍が北ベトナム本土への直接的空爆「北爆」を開始し、ベトナム戦争が本格化。

こうして、歴史的事実に徴すると乙巳の干支が意味するところが鮮明になりましょう。政変や戦禍の開始・終結など因習化・硬直化した現状に「けり」をつけ、打破していく年回りなのです。まさに、今年は容易ならざる年であることがお解りになられたでしょう。このことは、国ばかりではなく、企業や我々自身にも通ずる話です。

では、どうやってこうした難局を切り抜けて「けり」をつけるかについて考察しましょう。

先ず第一に、劇的な変化の起こる年ですから、国・企業・個人も全て、様々な変化の波に柔軟に対応していくことが必要です。もちろん右顧左眄(うこさべん)することなく迅速に抵抗を押しのけ、新たな道を切り拓き、変化をチャンスにしなければなりません。

第二に、「けり」・「けじめ」をつけることは、極めて難しいことです。一体、何を為せば、時代を動かすような改革・革新の歩を進められるのかを知るには、理想像を描くだけでは駄目です。新しい時代・時流に対する先見性や情熱を伴った時代感覚を養わなければなりません。また、不撓不屈の精神力や胆識が不可欠です。

第三に、蛇は脱皮を繰り返しますがこれは古い角質層を取り除く新陳代謝です。正常な脱皮は健康のバロメーターで、ニーチェが言うように「脱皮が出来ない蛇は滅びる」のです。我々人間にも絶えざる新陳代謝(メタボリズム)が生命維持に不可欠です。我々人間の新陳代謝は、新しい知識を貪欲に吸収したり、時として価値観の転換を進めることです。

最後に今年の乙巳の年相を踏まえて、我々SBIグループとしてどうするかについて述べておきます。
第一に、今年中にSBI新生銀行の公的資金返済(残り約3千3百億円)に「けり」をつける。返済後、出来る限り早いタイミングで株式公開を行うとともに、SBI新生銀行を中核とした第四のメガバンク構想を具現化し、広域地域プラットフォーマーとして地域社会に貢献する。

第二に、SBI証券を中心に展開してきた「ゼロ革命」はこれまでのところ成功裏に推移してきたが、今年はフェーズ2に移る。即ち、現在のSBI証券関連の顧客基盤を新商品の開発、新たなマーケットの創出、他グループ企業とのアライアンスの強化等々で倍増超の3千万人にもっていく。

第三に、今年はこれまで辛抱強く育成してきた暗号資産事業などが米国トランプ大統領の誕生と伴に大きく開花成長。一気にデジタル生態系をグローバルな視点で整備・拡大する。この分野での人材の採用・登用を積極的に行う。

最後に、相場格言に「辰巳天井」とあるが、我々は株式市況や為替相場に振りまわされないよう、通常のヘッジ手段だけでなく、新たな手法を開発しなければならない。そういう意味でリスクヘッジを十分考慮した事業ポートフォリオを構築する。

以上


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2025年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。