国際秩序の行方:トランプ流のディール主義になってしまうのか?

1929年の世界恐慌後にブロック経済と言って世界がいくつかの陣営に分かれ、その陣営内で貿易や経済関係を強化するという動きがありました。後年、このブロック経済は世界経済発展の弊害として大いなる反省材料となりました。

10年ぐらい前、私はこのブログで世界はブロック経済化に向かってやしないか、という趣旨のことを書かせていただいたことがあります。これは世界が連携などを通じて域内経済を重視し始めたことやBRICSという特定国集団が地球儀ベースで連携するなど主義主張をベースにした枠組み化が進んだことに懸念を示したものです。

ところがこの世界経済の枠組み化にくさびを入れたのがトランプ1.0でした。氏はそれまで順調に交渉が進んでいたTPPから脱退すると宣言、二国間協定や少数国とのディールを重視するスタイルを進め、連携による世界経済の枠組み推進を後退させました。

トランプ氏公式HPより

もちろん、トランプ氏だけが世界経済を牛耳るわけではなく、むしろ、トランプ氏に対抗するために連携がさらに強化されるという動きもあります。例えばTPP(正確にはCPTPP)は昨年12月に英国が正式加盟し、加盟12か国になり、現在コスタリカの加盟準備に入っており、日本を中心としたこの経済枠組みは良く機能していると言えます。

欧州のEUはアメリカに対抗する巨大経済圏という触れ込みでスタートしましたし、経済とは一線を画しますが、NATOも国際連携枠組みと言ってよいでしょう。

ではこのような国際秩序は今後も繁栄をつづけるのでしょうか、それともトランプ流にディール主義になるのでしょうか?

この答を出すにはそもそもなぜ経済的枠組みが必要なのか、という点に立ち返る必要があります。

一国の経済生産活動が全部自国で賄えれば鎖国主義を取っても構いません。発展は遅々としたものになるものの自給自足経済が可能だからです。ところが何百年も前から各国にはそれぞれの特性と得手不得手があり、不得手なものを入手することが国家にとっての命題でありました。英国がインドを植民地化し東インド会社を通じて莫大な利益を得たのは貿易であります。それよりも遡ればポルトガルのワインと英国の毛織物のケース(1703年のメシュエン条約)は経済学の教科書にも出てきたものです。日本は戦時中、石油や資源を求めて満州進出やアジアでの拡大政策をとったことも事実です。

経済が発展し、国民が様々な財やサービスに接すれば接するほど本国では賄えないものをなるべく安く入手する必要があるのです。まさか現代社会において貿易相手国を植民地化するわけにはいかないのでそれに代わってできたのが経済連携と言ってもよいでしょう。

では現代社会でもっとも欲しいものは何でしょうか?資源や食糧を別にするとたぶん半導体ではないかと思います。では競争力のある半導体を作っているのは誰か、といえば台湾と韓国がメインでしょう。ところが半導体のように高度な技術を要する製品だと半導体の製造装置を作れる国はそうたくさんありません。これが日本、オランダ、アメリカあたりでしょうか?更に半導体設計となるとアメリカが強いのです。つまりごくわずかの国家に財の供給ができる能力が偏っているとも言えるのです。

しかも最重要品目については各国とも厳しい輸出制限のルールを設定しています。いわゆる輸出規制です。そのため、一部の国では必要なものが入手できず、そのために不正な方法も含め、技術の取得、自国での製造を進めたい野望が生まれるとも言えます。

こうなると各国は仲良くせざるを得ない、これが私の見る近年の経済連携の枠組みであり、一定の規模の経済の追求であるとも言えます。先日の日経に移民の動きが域内に留まる傾向が強いという分析記事がありました。たとえば東南アジアの人なら移民しても東南アジアの別の国に留まるというものです。

こうなると世界各国は紛争を良しとしないはずです。ところが一部の大国、つまりアメリカと中国は自給自足ができるだけの資源、国土、人口、経済規模、政治力を持っているため、上から目線になりやすくなる、これが私の見る別の意味での国際秩序です。そしてこの二大大国が好む好まざるにかかわらず、世界でルールを作り出そうとしているとも言えます。この構図は我々の歴史にはなかったのです。かつての大英帝国の時代でも自給自足ができたわけでも十分な人口がいたわけでもなく、現代でいう大国ではありませんでした。

では二大大国が理不尽なことを言ってきたらどうするか、昨日のブログの話題の通り、我々はこれで振り回されるのです。そして来週からまたトランプ2.0を通じて戦々恐々としなくてはいけないのです。かつて日韓の間が非常に冷えていた頃、それでも日本の企業は韓国で相当規模のビジネスをしていました。今、中国から撤退する日本企業も増えていますが、それでも日中間の貿易は最大のビジネスパートナーであります。そのために穏便に話を進めてきたのが我が国の歴史。よってトランプ氏がどれだけ厳しい政策を打ち出してアメリカとのディールにもしがみつくのでしょう。

但し、すべての国が二大大国にどんな条件を出されてもしがみつくことはないわけで必ず落ちこぼれが出てくるでしょう。これが秩序の乱れとなり、紛争のきっかけになるとも言えそうです。2025年が読みにくい年と言われるゆえんの一つはそのあたりにもありそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月15日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。