三菱UFJ貸金庫事件の裏にある「割印」というアナログ管理

三菱UFJ銀行の貸金庫から現金や金塊など十数億円が盗み出された事件は容疑者の女性が逮捕され、これから真相究明が進められていくことになります(写真は日本経済新聞電子版から)。

写真を見て、容疑者が俳優の「和久井映見に似ている」と報道されていたことにも驚きましたが、それより驚いたのは多額の資産が盗み出されていたにも関わらず犯行が4年以上も発覚しなかったことです。

これは貸金庫という秘匿性の高い場所での犯行だったこともありますが、もう1つの理由として鍵の管理を「割印」で行っていたアナログ性が背景にあると考えます。

割印とは、日本の商慣習に根強く残っているやり方で、封印をした場所に印鑑を押すことで開封したかどうかを管理する方法です。

貸金庫のスペアキーを封筒に入れて封印し、銀行と顧客がそれぞれ割印を押すことで、その封筒を銀行側が勝手に開けられないようにするのです。

しかし、割印して封印されたものを丁寧に剥がして、ズレのないように再び封印すれば、中の鍵は簡単に取り出せます。このアナログな管理方法が、簡単に鍵を使って貸金庫の中にあるものを勝手に取り出せた理由です。

銀行の支店には定期的に社内の検査が入りますが、貸金庫の検査で保管してある割印されたスペアキーの封筒をチェックしても、きれいに元の状態に戻してあれば発見することは困難です。

今回の事件によって、印鑑を使ったセキュリティー管理の不完全性があぶり出された格好です。

三菱UFJ銀行は再発防止策として、貸金庫の記録のチェックの徹底、防犯カメラなどインフラの増強、子会社による点検の強化、行員の意識徹底に向けた施策などを検討しているようですが、的外れだと思います。人が関わる限り同じ事件が発生するリスクはゼロにはならないからです。

事件の再発を完全に防止したいのであれば、貸金庫の利用者以外がアクセスできないようにすることです。具体的には、スペアキーを銀行側で預かるのをやめて顧客にすべての鍵を渡し、万が一紛失した場合は貸金庫の鍵の交換費用を負担してもらうといったやり方にすべきでしょう。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。