千葉のローカル鉄道①: 不動産会社が運営 住宅地をぐるりと回るユーカリが丘線

新年は青春18きっぷを利用して千葉を旅していました。

青春18きっぷはJRしか使うことができませんが、旅程の中でどうしても今回寄ってみたいところがあって京成電鉄に乗車。

佐倉市のユーカリが丘という駅で下車しました。ユーカリが丘というだけあって町のシンボルらしいコアラが出迎えてくれました。

わたしがユーカリが丘駅で下車したのはここから延びるローカル鉄道、ユーカリが丘線に乗車するため。ユーカリが丘線はユーカリが丘駅の北で開発された大規模住宅地の中を循環するように走っている新交通システムです。

向こうに見えるのがユーカリが丘線のユーカリが丘駅。京成電鉄の駅に隣接しています。気に隠れて見えにくいですが、駅には山万株式会社という看板も見えます。山万は不動産開発を行うディベロッパーであり、かつこのユーカリが丘線を運営する鉄道事業者でもあります。そう、ユーカリが丘線は山万が開発したニュータウンの利便性を高めるために自ら鉄道事業に乗り出し敷設された鉄道路線なのです。このような例はほかにも積水ハウスが開発した広島市の瀬野駅とみどり坂分譲地を結ぶモノレールがありましたが昨年廃止されバス転換されてしまいました。ユーカリが丘線は1982年に開業して以来今も自ら開発した分譲地に入居するオーナーたちのために毎日走り続けています。

不動産会社が鉄道事業に参入するのは前代未聞でなかなか許認可が降りなかったといいますが、交渉を重ねて開業に至りました。ユーカリが丘の住民の利便向上のためというのももちろんありますが、鉄道事業という高い安全性が求められる事業を行っていることは世間からの信頼を得られるという目算もあったと思われます。

それではそんなユニークな路線であるユーカリが丘線に乗車することにしましょう。チケットはQRコード式で自動改札機にかざして入場します。料金はどこまで乗っても1回乗車で200円です。

ユーカリが丘駅の比較的広いホームに「こあら3号」がやってきました。AGTと呼ばれる専用軌道を案内軌条にしたがって走行する交通システムが採用されています。コンパクトでなかなかかわいらしいフォルムは遊園地のアトラクションのよう。実際、ユーカリが丘線が開業する10年前に近くの谷津遊園で同じ型の車両が遊具として走行していたそうです。

コアラの可愛らしいデザインがまた遊園地のような雰囲気を醸し出します。

列車は夕暮れ時のニュータウンの中に向かって走り出します。車窓から見える夕焼けが美しいです。

列車は夕焼け空を望む公園駅に到着しました。「公園駅」。かなりシンプルな名前です。ユーカリが丘線の駅名はこのほかにも「中学校駅」「女子大駅」とどストレートな名前のものがほとんどです。シンプルで覚えやすい。「公園駅」は公園があったから公園駅とついたのではなく、ここに公園を造る計画があったから公園駅と名がつきました。中学校駅もそうで、町の全体計画をもとに駅名がついています。

ただ、女子大駅については女子大が来る予定だったからこの名がついたのですが、計画が変更になり女子大のセミナーハウスだけがここに建てられたのみに終わるという結果になりました。女子大がないから名前を変えようという話もありましたが、住民はこの名前を気に入っているようで、この名が今も変わらず残されています。

ユーカリが丘線は公園駅から女子大駅、中学校駅、井野駅と回って公園駅に戻る片道一方通行の走行で、逆ルートはありません。

黄昏の中学校駅で下車しました。折角来たので年明け間もない住宅地の中を散策します。

うん、住宅地だね。

駅名になった中学校はこちら。女子大とは異なり計画通り中学校駅の付近に造られました。黄昏の中にサッカーに興じる子供たちがいました。絵になる光景です。

ユーカリが丘線は開発から40年が経っていますが、開発されているのは主にユーカリが丘線の線路の外側部分で内側はこのような緑地帯になっています。ユーカリが丘は開発をただ進めるのではなく大規模な緑地帯を残して環境にやさしい住環境も整えています。

環境にやさしいといえば、この列車には今の鉄道には必ずついているあるものがついていません。それは、

冷房

天井についているこれは送風機で冷房ではありません。40年前に開発したAGT車両は小型で冷房をつける場所などなく、夏場は窓を開けて風を送ったり、うちわを提供したりして何とかしのいでいます。

あえて冬にここに来ようと思ったのはそういう訳です。なかには夏場に一日中ユーカリが丘線を乗り回すという変態猛者もいます。

ニュータウンの中をくるっと回って14分でユーカリが丘駅に戻って来ました。開業から40年超。同じくニュータウン開発とともに開業した桃花台交通やみどり坂スカイレールが廃止される中、最古参のユーカリが丘線は今も元気に活躍しています。

これからの活躍を応援する意味で、鉄道に興味のある方は是非一度乗ってみてはいかがでしょうか。夏に。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。