トランプ大統領の思う製造業復活はあるのか?:関税の脅しはクレバーではない

「トランプ大統領」という日がまたやってきたのですが、基本的には1.0の時と基本方針はほとんど変わっていないと思います。では100以上も署名するとされる大統領令にどれだけの効果が期待できるのか、そしてトランプ氏の本心はどこにあるのか、私なりに探ってみたいと思います。

トランプ大統領Xより

まずは手を付けやすいところからスタートする、こう見ています。それは不法移民への強制国外退去ですが一部地域では正規移民から不法滞在を含めた広義の移民がローカル経済を支えているところもあり、不法移民の処遇は一部で相当の反発を招くかもしれません。特に複雑なのは家族の一部が不法移民という場合で家族が引き裂かれざるを得ないケースが出てきます。トランプ氏はその場合は家族ごと全部強制送還と述べていますが、それも強引すぎるでしょう。

トランプ氏は製造業の復活を訴え、何千もの製造業をアメリカに取り戻すと宣言しています。第一期の時は一種のレパトリエーション(本国への帰国)を促すため諸外国の優遇税制制度に矛先を向けました。そしてバイデン政権下では半導体向けのCHIPS法と製造業、建設業、再生可能エネルギー分野強化のインフレ削減法(IRA)があり確かに工場建設の投資は倍増するなど急激な伸びを示しています。

但し、箱(工場)ができても質の高い労働者が十分に揃わない、という問題を抱えています。その中で不法移民の強制送還は底辺の仕事を請け負う人が不足し、労働基盤のバランスに問題を生じさせる可能性はあるでしょう。

一方、アメリカは正規の移民が多いのも特徴で2024年度の人口は330万人増え、うち、約280万人が正規移民とされます。自然増が52万人でしたのでアメリカでも純粋なアメリカ人の比率が少しずつさがり、移民による経済の下支えが続くのだと思います。

アメリカの製造業でも高度な技術やノウハウを持った人材を要求されるレベルになっており、その場合労働者の奪い合いから賃金の上昇が起きています。私が感じるアメリカは労働者を金で釣り上げる構図で、忠誠心が薄い労働者がより複雑化する製造業工程において品質の良いものを安定的に製造できるのか疑問はあります。が、長期的には改善されていくでしょう。

ケーススタディとしてわかりやすいのが同じ移民国家のカナダですが、学問や資格においてカナダ人と比べ、概ね移民の方が優れた成果を残しています。背景としてはカナダの移民はカテゴリー的に経済移民が多く、その子供たちも高い教育レベルを受けているケースが多いことがありそうです。更に
移民故にそのハンディキャップを乗り越えるため、ローカルの人の2倍も3倍も努力しないと躍進できないことがわかっているのです。

私も移民のステータスですが、カナダでは比較的印象が良い日本人でもカナダ人中心の社会には入りにくいのです。そのために自分の目標を絞り込むしかなく、私の場合は仕事で上位を目指したわけです。他の移民の方もものすごく努力してよじ登っています。大企業は採用者数も多く、コーポレートガバナンスという姿勢もしっかりしてるので公平な目線で能力主義的な採用や人事をしますが、小規模企業では今でも生粋のカナダ人とそうではない人のバランスを考える経営者が多いのもこれまた事実です。

アメリカの人口に対する移民比率はおおよそ15%、カナダは25%であるため、移民の処遇待遇はカナダの方がはるかに進んでいます。アメリカの移民に対する姿勢がカナダのそれの水準に近づくにはまだ20-30年かかるのでしょう。これが私が見るアメリカ製造業のボトルネックではないかと思います。

トランプ氏が本気でアメリカを復活させたいなら正規移民に高い教育を維持し、より公平さを出すようにしないと真の意味での製造業復活はたやすくありません。

トランプ氏の他国への関税賦課の脅しは、国内産業をより活性化するための方策の一つだと考えていますが、自国の弱点を関税措置により保護するのは一時的な措置だとしてもあまりクレバーなやり方にはならないと思います。理由は国内産業に国際競争力が欠如し、最終的には諸外国に勝てないからです。よって正論すぎるかもしれませんが、トランプ氏の国内製造業の復活、強化を図るならどう国内産業に力をつけ、輸出競争力をつけるのか、再検討すべきでしょう。氏は不動産事業家なので製造業の厳しさはなかなか理解できないのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月22日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。