フジテレビの一般企業の広告がACジャパンの広告に切り替わっていくそのすさまじい勢いにさすがのフジも親会社が臨時取締役会を開催せざるを得ないところまで追い込まれてしまいました。
そのフジテレビの親会社、フジメディアホールディングスの決算を見ると正直、メディア会社なのか不動産会社なのか疑問に思ってしまいます。24年11月に発表の24年9月度半期決算を見ると売り上げはメディア関連が2054億円で都市開発観光事業部門が602億円です。ただ、利益を見るとメディアが48億円に対して不動産事業が98億円と不動産がメディアの2倍稼いでいるわけです。もちろんこの半期決算だけを取り上げて会社の特性を断言する気はありませんが、フジという会社はそういう会社なのであります。
かつてサッポロビールがビール会社ではなくて不動産会社だと揶揄されたことがあります。恵比寿などの不動産でほくほくしているからビール事業は何時まで経ってもビリ争いと言われたわけです。最近では不動産収益は比率的にはそこまで大きくなく、きちんと酒類販売が利益の柱になっています。
不動産事業を副業としている企業は往々にして本業で躓くことがあります。朝日新聞も確かそうだったと思います。私も不動産を生業としていますが、私は不動産が本業であって、だまっていても収益が上がるわけではなく、特化するから攻めるし、強みがあるとも言えます。単なる大家事業ではないのです。
フジはこのまま広告主がそっぽを向く事態が続けば会社がつぶれるかといえば収益からすればすぐにはつぶれないでしょう。仮に1-2期巨額の赤字が出ても別に復活できるシナリオが描ければそれで問題ないはずです。特に同社の株価は低PBR株として知られており、現在比率は0.4程度です。いくら何でも理論的株価に比べて安すぎる、というわけです。
ただ、ことはそう簡単ではないと思います。まず放送の免許は総務省が握っている点です。今回の問題だけで総務省がすぐに電波停止をすることはありません。それをすれば同様問題が他社に広がった場合に地上波の存在を揺るがし、国民への無償の情報提供というインフラが達成しえなくなるからです。
とは言えども総務省は徹底した調査と詳報をフジに要求するでしょう。付帯的問題、例えば港社長の記者会見の歯切れの悪さから批判や憶測、波紋を呼んだ点について苦言を呈するかもしれません。また事実をトップが長く知っていたにもかかわらず、事なかれ主義、番組重視でガバナンスが効かなかったことで管轄省庁としてフジへの厳しい叱責はあると思います。
次に従業員です。当然ながら動揺が走っていることでしょう。また公共放送だけにアナウンサーなどが矢面に立たされますし、街頭インタビューもしにくくなるでしょう。更には番組制作部門がフジテレビへの協力拒絶姿勢に直面し、良い番組制作ができないということも中期的には起こりえると思います。もちろん、一部の従業員は他のメディアへ動いたり退職するケースが出てきてもおかしくありません。
つまり一般大衆に最も知られた企業でメディアという発信型ビジネスをしているだけに広告主から視聴者までその信頼を一度失ってしまうと留まるところ知らずになりかねないとみています。
では、どう再生させるかです。1つは内部改革による手法、もう一つは外部のブラッドを入れたりM&Aがあります。内部改革の場合、経営トップが辞めるだけでは済まないでしょう。企業体質がどうだったのか、編成部長だったA氏が絡んでいるのなら彼だけの問題だったのか、社内全般の体質なのかを全部スキャンし、開示する必要が出てきます。これには少々時間がかかるでしょう。
個人的にはフジ再生には一気に浄化できるM&Aの方がよい気がします。メディアのあり方が大きく変わり、視聴者はYoutubeやネットフリックスといった自分の好みの動画を視聴する傾向がますます強待っています。地上波経営がそれらと対峙した形となるのではなく、どうやったら地上波の価値を引き出せるか、或いは他のメディアソースとどう相乗効果を生み出すかといった運営に変える必要があります。
例えばそれらを具現化するには例えば先日カドカワを買収したソニーのように巨大メディアが地上波部門として運営した方がずっと理にかなっていると思います。仮にソニーなら不動産事業には興味を持たず、メディア事業の一本勝負ができるでしょう。(そうなれば会社分割ということになります。)こういうきっかけが他の地上波メディアにも影響を及ぼすことになるとみています。
事実、TBSやテレ東など他の地上波メディアでも社内調査を開始しています。他社も同様の社内調査が続くと思います。
皆さんが地上波を見ていておかしいと思うことはありませんか?どのチャンネルも同じような番組を同じような時間にやっているのです。差別化があまりできていないのです。昔はテレビは日々の娯楽として1択だったので他社と同様という姿勢でもよかったでしょう。でも現代では地上波放送は5択、10拓の1つでしかないのです。
ある意味、今回のフジテレビの試練はようやくそのきっかけが生まれたか、という点でメディア全体にとっては好都合だと思います。どう変わるのかわかりませんが、私は期待しています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月23日の記事より転載させていただきました。