仕事ができる人ほどサイコパス気質な理由

黒坂岳央です。

「仕事ができる人ほどサイコパスが多い」という話は有名だ。誰しも聞いたことがあるのは、「経営者にサイコパス気質が多い」というものだろう。

オックスフォード感情神経科学センターは、企業経営者という職業に多い傾向があると指摘している。

サイコパス気質だから経営者になるのか?それとも経営者になるとサイコパスになるのか?もちろん、両方ともケースとしてあり得るだろう。

尚、本稿で取り扱うサイコパスの定義だが、いわゆる「シリアルキラー」のようなものではない。共感や罪悪感が希薄であるという特徴はあるものの、犯罪者や反社会的な行動をする人物ではなく、ビジネスの場で独特の合理性や冷静さを持つタイプを指している。

筆者が独立後、多くの経営者に接する中で、「世の中には意外とサイコパス気質の人がいるのだな」と思う場面が何度もあった。興味深いのは、本人たちが自分の非凡さを自覚していないケースが少なくないという点だ。

統計的な裏付けはないものの、仕事に全力を注ぎ、困難な状況に立ち向かう人ほど、結果的にサイコパス的な要素を身につけるのではないかという仮説を取り上げたい。

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人は感情で失敗する

仕事をする上でうまくいかないことはつきものである。ここで言いたいのは、ケアレスミスのような類ではなく、大きな痛手を追うような失敗のことだ。そしてその失敗は往々にして、感情が起点になっていることが少なくない。

感情的になって人とトラブルになったり、焦った結果、取り返しのつかないミスをやらかして仕事が継続できなくなったりする。また、最近では表面的に良さそうな人が近づいてきてコロリと騙されるケースも有る。

筆者が実際に聞いたケースでは、従業員が会社のお金を盗み、経営者が問い詰めると涙ながらに許しを請うので、思わずうろたえてしまい許した。しかし、その後その従業員は舌を出し、なんと、更にごっそり大金を抜かれて逃げられた、という話だ。

この事例で言えば横領するような手癖の悪い人間は簡単には治療が難しく、初犯の時点で再発の芽を摘んでおくべきなのは明らかだった。しかし、感情がその判断を鈍らせてしまったのだ。

仕事で感情が消えていく

ここからは筆者の仮説だが、オーナー経営者という立場は仕事に全人生をコミットするような立場であり、彼らが命をかけて仕事を頑張る中で徐々に感情が消えていくのだと考える。

理由は感情を持ち込むと、取り返しのつかない大きな失敗につながることを体感的に知っているからだ。

例えば、部下が転職する際、最初は感情的に動揺してしまうかもしれない。しかし、経験を重ねるうちに「部下の選択は自分の管理外の問題(課題)」だと割り切れるようになる。これは「自分の課題」と「相手の課題」を切り分ける考え方によるものだ。

こうした意思決定や経験を繰り返していくと、最初は感情が大きく動くような体験にも徐々に慣れてきて、感情を抜いた最も合理的でスムーズな手続きを取るようになる。

淡白に処理する様子をはたから見ることで「冷酷」や「無感情」に映るかもしれない。

自分はサイコパスのつもりはないのだが、独立初期の頃は何でもこわごわ、大騒ぎしながらやっていたことでも徐々に肩の力が抜け、感情を抜いて冷静に対処できるようになってきたように思う。もしかしたら、その様子こそが「経営者になるとサイコパスになる」と感じる理由なのかもしれない。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。