トランプ氏とディールできる孫正義氏のスターゲートプロジェクトが目指すこと

好き嫌いがあるにしても孫正義氏も大した肝を持っていると思います。トランプ氏に短期間で2度会い、トランプ氏からこれほど持ち上げられている日本人も今は他にいないのです。安倍昭恵氏はどちらかといえばメラニア氏との関係を維持しているわけでトランプ氏とディールできるのは現時点で孫氏しかいません。

会見する孫正義氏とトランプ大統領

トランプ氏の好みは明白なポリシーと強い主張と個性と積極性がある人です。マスク氏が好まれたのもそれが理由。孫氏も同様です。トランプ氏にとって石破氏はディール対象の候補にも挙がらないと一部メディアが報じていますが、何を言っているかわからない点でトランプ氏と全くウマが合わないように見えるのです。故に私は以前から石破氏とトランプ氏が会談をしているシーンが頭に描けないと申し上げているのです。2月に会談をするのは構いませんが、石破氏がどれだけ自身の考えをズバッと打ち出せるか次第であり、会談をしなかった方がいいという結果にすらなりかねないのです。

さて、孫氏が今回立ち上げたスター ゲート プロジェクト。今後4年間で5000億ドル(76兆円)を拠出するとし、少なくとも1000億ドル(15兆円)を直ちに投資するとしています。投資目的はアメリカに新たなるAIインフラを整備するためとし、孫氏が議長に、実行部隊のトップにサム アルトマン氏率いるOpen AI、初期立ち上げメンバーにはほかにオラクルが加わります。初期テクノロジーパートナーにはアーム、マイクロソフト、NVIDA、オラクル、オープンAIが名を連ねています。

AIのインフラを立ち上げるだけでこんなにコストがかかるのか、と思いますが、私は中身を見ていないのですが、電力供給のプランが内包されているとみています。昨年、スリーマイル島の原発を再稼働させ、マイクロソフトが自社のAIインフラに供すると発表してますが、スター ゲート計画には次世代型原子力発電小型モジュール炉(SMR)の推進が不可欠なはずでコンピューティング産業だけではなく、周辺業種でも大きな動きが出てくるだろうとみています。

また今回、同プロジェクトはテキサス州から投資をスタートします。近年のアメリカ内でのテキサス投資ブームは極めて大きな動きになっています。テキサス州には主要都市が3つ、ダラス、ヒューストン、オースティンがあり、人口も急増しています。またカリフォルニア州が規制だらけの州であるのに対してテキサスがオープンであることもオポチュニティという観点から圧倒しており、かつてのゴールド ラッシュで人口移動が起きたのと同様、インベストメント ラッシュでテキサスに強烈な太陽が照りつけていると断言してよいでしょう。

ではスター ゲート計画がなぜ、トランプ氏のハートを射抜いたのでしょうか?ずばり、AI技術のアメリカでの囲い込みとみています。いわゆる製造業は地産地消ともされ、世界中に工場投資をする必要がありました。ところがテクノロジーはアメリカに基盤があれば世界を支配できるのです。そして世界中の人に「あなたのデータは安心です。なぜならアメリカにデータセンターがあるからです」という囲い込みができるのです。アメリカに圧倒的なインフラを作ればそれがディファクトスタンダードになるのは目に見えています。日本だって頑張っているぞ、と言っても9割はアメリカのテクノロジーインフラに頼らざるを得なくなるのです。

わかりやすい例で言うとネットフリックスは今や日本を含め世界で3億人の人々が視聴するエンタメのインフラです。ではその会社はどこにあるか、といえばアメリカです。もちろん、拠点は各国にありますが、それは営業拠点でしかなく、頭脳も意思決定も主要なインフラ基盤も全部アメリカにあるのです。これが今後、テクノロジー全般になるということです。

特に今回のAIインフラでは医療の分野での大躍進が期待されています。がんなどの治療が画期的なレベルで改善されるとされます。それらをすべて牛耳る基盤がアメリカにできるということです。

トランプ氏は憲法改正をしない限りあと4年しか大統領に君臨できませんが、アメリカにテクノロジーの基盤を集約させれば他国はアメリカのいうことを聞かざるを得ないとも言えるのです。これが達成できれば核兵器より強い人類を支配する手段になりえるのです。

そういう意味で孫氏はアメリカの主要テック企業をまとめ上げ、トランプ氏にピッチ(=プレゼンテーション)をし、アメリカ国内に圧倒的な勢いをつけた男として日本最高の暴れん坊将軍であると思っています。

こうなると孫氏に金は集まってくるのです。これだけの資金、どうするのかね、といぶかしげに見る人が多いのは知っています。ですが、孫氏の源泉は山師なのです。ぶち上げる、そしてどんと来い、なのです。かつて街角で家庭用モデムを無料で配り歩いたのが孫氏です。最近ではQRコード決済事業でPayPayが一人勝ちになっていますが、あれも初期に無茶苦茶なセールスと市場シェア獲得にまい進したからこそ今の結果があるのです。それらは孫氏でなければできない無謀とも言える賭けですが、孫氏ゆえに成功裏に展開しているのです。

繰り返しますが、孫氏は好き嫌いあるかもしれませんが、私には20年後に圧倒的に日本を代表する経営者の一人という評価になっていると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月24日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。