終活は「40代から」始めなさい

黒坂岳央です。

一般的には、「終活」は人生の終わりが見え始める60代からと言われることが多い。だが、理想的にはもっと早め、できれば40代くらいから始めた方が良いのではないかと思う、そんな出来事があった。

ある日、医者にかかっていきなり全身麻酔を伴う大きい手術を勧められた。熊本ではその手術を受けることができないといわれ、急遽、大阪の病院へ移動しての手術、入院が決まったのだ(病気ではない)。

もちろん、無事に終わって危機は去ったが、過去に自分の身にこれほど間近に死の実感が迫ったことがなかったため、ちょうどいい機会と思い終活を始めた。

一連の活動を経て、筆者が実践しておすすめしたい終活のコツをシェアしたい。

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早めの準備が必要な理由

死はいつやってくるか分からない。ガンのように徐々に衰弱していく進行性の病気なら、しっかりと準備を進めることができるのだが、事故や災害などのケースはあらかじめ予想ができない。

万が一、想定より早くお迎えがやってきた時は、残された遺族が困らないように準備をしておく必要がある。それが終活の目的である。

40代の終活で特に重要なポイントは、大事なデータやパスワード、資産へのアクセス手段、ビジネスの取引先や顧客に迷惑がかからないよう連絡網や緊急対応について死後、スムーズに遺族へ渡る準備を進めておくことだ。

そしてこの年代は子供が独立していないことも多い。筆者も例外ではない。突然、自分が急死して家族が困ることがないように準備を進めておくわけだ。

特に最近はiPhoneなどに機密情報が詰まっていることも少なくない。だが、Apple社はたとえ警察からの要請でも、本人の許諾なくスマホのパスワードの解除を行ったりしない。そうなると遺族は重要な銀行や証券口座などの情報へアクセスする手段を失ってしまうことになる。

そこで筆者の場合、自分が急死した場合に必要になる情報を家族だけがスムーズにアクセスできるよう準備済だ。

その手段は具体的には言えないが、極めて堅牢なセキュリティで構築しており、いかなる手段を用いてもネットワーク経由でのアクセスを不可能にしている。自分の人生のすべてをそこに保管しており、今後はそのメンテナンスが終活の一環となるだろう。

身辺整理を済ませて生活

そして終活の2つ目は身辺整理である。筆者は普段からペーパーレスを徹底し、冠婚葬祭で着るスーツをはじめ、あらゆるアイテムをレンタルで済ませてできる限り身軽な状態にしている。家にもほとんど物を持たず、いわゆるミニマリストに該当するだろう。

たまに聞く話が、家族が亡くなった後に大量の思い出の品やゴミが出て、遺族がその対応に追われるというものである。

実際、筆者は数年前に父を亡くしているが、その際も遺物の整理にかなり骨を折った。父が大事にしていたものも少なくなかったので、取捨選択が特に大変だった。自分の時は遺族にそうした苦労をさせないよう、できる限りものを所有しないようにしている。

終活をして良かった3つのこと

本格的に終活をして良かったと思える点がいくつかある。

1つ目はこれからの人生を改めて考え直すことができたことだ。「まだまだずっと、これからも人生は続いていく」とまるで永遠に生きるように考えると、誰しも気乗りしないことなどはつい先送りにしてしまいがちだ。

だが、一度、しっかりと終活と向き合うことで「ああ、誰にとっても人生は本当にいつ終わるかわからないのだな」と心から実感するため、やりたいと思っているあらゆる経験はできる限り前倒しにして、ドンドン終わらせようと考えるようになる。

「時期が悪いからまた今度」などとは思わない。今やるか?それとも二度とやらないか?くらいに考えて何でも今すぐ手を付けるようにしている。

2つ目は死後の世界を考えるようになったことだ。自分が独身だった頃は「亡くなった後の世界のことはどうなっても知らない」と思っていた時期があった。

しかし、終活をすると死後、残された家族、大事な人たちに少しでも役に立つように、そしてできるだけ困らないようにしようと考えるようになった。

3つ目は死が怖くなくなることだ。急死が怖い理由の一つに「仮に今、亡くなったら色々と道半ばであることが悔やまれる」という思いがあるだろう。

しかし、すでに重要な遺産や遺言事項が済んでいれば極端な話、今すぐこの世から消えても一切の悔いはない。仮に追加で残したいものができたなら、終活データをアップデートすればいい。

40代から終活というと「まだ早い」と思うかもしれないが、誰にとっても死は予期できない。今回、突然に思わぬ手術の必要性に見舞われたことで、一層その思いは強くなった。自分はまだ死ぬつもりはないのだが、死はそうした本人の事情や意志を乗り越えてやってくる。そのため、いつでもお迎えが来ても良いように早い内から準備をしておくに越したことはないだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。