若手が辞める要因は、お金でも人間関係でもない

monzenmachi/iStock

今の若手社員が会社を辞める本当の理由は、なんだと思いますか?

給料、人間関係、入社前後のギャップ、ほかにやりたいことが見つかったから、時代の変化で転職が当たり前になったから……。読者のみなさまのこれまでの経験や知識から、様々な理由が推測されると思います。

離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』(井上洋市朗 著)秀和システム

[本書の評価]★★★★(80点)

【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★  「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★   「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★    「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満

若手の離職理由

多くの企業が人手不足に悩む中、若手人材の確保のために企業は、様々な施策を打ち出しています。初任給アップや転勤制度の見直し、入社前の配属確約、若手新人の残業禁止などなど。しかし、万能な対策はありません。著者は次のように言います。

「どんな対策でも、若手社員が辞める理由に対応したものでなくては、効果がありません。そして、実は多くの方が、若手社員が辞める理由を勘違いしているのです。若手社員が辞める理由について、よく言われるのは給料と人間関係の問題です。これは、離職対策がテーマの研修や講演会の事前打ち合わせでも頻繁に耳にします」(著者)

「ある地方で講演会の依頼をいただき、事前打ち合わせをした際には『結局は給料の問題だと思いますが、地方の中小企業は現実的に給料アップが無理なので、給料アップ以外の話をしてください』と真剣な表情で言われたこともあります。たしかに、給料は重要な要素の一つですが、それだけが理由ではありません」(同)

厚生労働省(厚労省)が発表する新卒入社後3年以内の離職率の推移を見ると、直近10年は大企業(従業員1000人以上の事業所)では上昇傾向であることがわかります。

「一般的には、大企業のほうが給料がよい傾向にあるので、給料が問題であれば、大企業の3年以内離職率が、中小企業より上昇傾向にあるのは違和感があります。人間関係についても同様です。従業員が少ない中小企業のほうが、人間関係は密になりがちですし、イヤだと思ったときに異動願いを出すこともできません」(著者)

「結局、理由は何なのでしょうか? 今までインタビューを重ね、様々な企業の若手社員や人事の方々と対話する中で、若手社員が辞める理由として、①存在承認の不足、②貢献実感の不足、③成長予感の不足の3つがあることがわかりました」(同)

ミスマッチは幻想である

じつは、筆者も本書のテーマに関心があり調査をしたことがあります。

「採用のミスマッチ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。採用する企業と学生との間に認識のズレがあり、入社後にギャップが生じて、新卒社員が早期に離職してしまうことを指します。このミスマッチが生まれる理由は、おもに2つあると考えられます。

  1. 厳選採用への移行の失敗
  2. 大学進学率の高まりと学生の質の低下

厚生労働省の「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」では、現在までの離職率データを確認できます。

ミスマッチは、昭和40年代の高度経済成長時代から社会問題として取り上げられていました。ところが、当時の数値と現在の数値にそれほどの乖離は見られません。また、G7各国の状況と比較して日本が高いわけではありません。

離職率が高くないということは、日本のミスマッチの基準が間違っているということです。ミスマッチがクローズアップされることに意味はないのです。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)