IMF(国際通貨基金)の対日勧告は毎年甘く、あまり意外性がない。これは日本が第2位の出資国で、財務省から出向者がいるので、日本政府の意向に逆らえないからだが、今年はややトーンが変わった。
特に石破政権が少数与党に転落し、与野党の減税ポピュリズムに弱腰になっていることを警告している。他方で長期金利が上昇し、外資系ファンドが日本国債市場に参加してきたため、国債市場や外為市場は不安定化している。
IMF(国際通貨基金)が日本経済に関する2025年の「第4条協議」の結果を発表し、日本の経済状況、成長見通し、リスク要因、および政策の優先事項について評価している。
日本経済の現状と見通し
- インフレと賃金の動向: 30年間ほぼゼロだったインフレ率が上昇し、日銀の目標2%を超える状態が続いている。賃金上昇立は高いが、実質賃金は下がっている。
- 経済成長の見通し: 2024年前半は供給の混乱で成長が縮小したが、後半に回復。2025年には実質賃金の伸びによる個人消費増加で成長が加速すると予測。
- リスク要因: 世界経済の減速、地政学的な緊張、食料・エネルギー価格の変動。国内では、実質賃金の伸び悩み、公的債務の増加がリスク要因。
財政政策
- 2030年までに高齢化による医療・介護費の増加で公的債務が再び増加。
- 対策としてエネルギー補助金の廃止、資産課税の見直し、消費税率の引き上げを提案。
- 与野党協議で野党側から大型の所得減税など歳出増をともなう要求が多く、少数与党になった石破政権が抵抗できない。
金融政策と為替政策
- 日銀の金融緩和は適切だが、慎重な政策金利の引き上げが必要。
- 市場の安定を考慮しながら国債の保有残高を減らすべき。
労働市場と構造改革
- 高齢者の労働参加を促す年金制度の見直し。
- AI時代に適応するための職業訓練プログラムの強化。
- 外国人労働者の受け入れ拡大による労働力不足対策。
産業政策と環境政策
- 半導体・AI産業への支援やグリーントランスフォーメーション推進。
- 産業支援は最小限に抑え、ターゲットを絞るべき。
- カーボンプライシングの導入で環境対策の実効性を高める。
金利上昇が続くと何が起こるか?
国債の利払い負担が増大
- 日本はGDPの約240%の公的債務を抱え、その多くは国債として発行されている。
- IMFの試算では、2030年までに国債の利払い負担が倍増する可能性がある。
- 金利が上昇すると国債価格は下落し、金融機関に損失が発生。
- 市場の信頼が低下すると、日本国債の売りが加速し、金利がさらに上昇するリスクがある。
円高圧力の強まり
- 金利上昇で海外投資家が日本円資産を買いやすくなり、円高が進む可能性がある。
- 円高になると輸出企業の利益が減少し、経済成長が鈍化する。
政府や日銀はどう対応すべきか?
財政健全化と経済成長の促進
- ✅ 不要な補助金の削減(特にエネルギー補助金)。
- ✅ 社会保障支出の見直し(高齢者向け給付の削減)。
- ✅ 資産課税の見直し、消費税率の引き上げなどの税制改革。
- ✅ 解雇の金銭解決の解禁などの規制改革。
金融政策の慎重な調整
- ✅ 政策金利のゆるやかな引き上げ。
- ✅ 指標を物価目標から中立金利(自然利子率+予想インフレ率)に移行。
- ✅ イールドカーブ・コントロール(YCC)の見直し。
金融市場の安定維持
- ✅ 銀行の健全性を監視し、地方銀行の統合・再編を促進。
- ✅ 金利急騰時には短期資金供給を行い、市場の混乱を防ぐ。
- ✅ 外国人投資家の国債保有動向を注視し、円債市場の安定化を図る。
為替市場への対応
- ✅ 円高リスクに備え、輸出産業の競争力を維持。
- ✅ 海外投資家との対話を強化し、日本市場の魅力を高める。
全体としては、依然として日銀には甘いが、石破政権にはきびしい。特に与野党の政策協議で野党のバラマキ要求に政権が弱腰になっていることを警告し、このままでは2030年までに利払いが倍増すると警告している。それは結局、国民の負担増になる。
日銀の植田総裁には好意的だが、黒田総裁の膨張させたバランスシートを正常化するには時間がかかる。今まで日本国債は日銀の買い支えによって国内でほぼ完結していたが、金利上昇で国際化すると利払いが増加し、金融システムが不安定化するなど不測の事態も考えられる。日銀の出口戦略は、むずかしい舵取りを迫られよう。