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1. 笹子トンネル事故から12年
2012年の笹子トンネルの天井板崩落事故から12年が経過した。事故を契機に、インフラに関わる技術開発や制度設計が急速に進み、インフラマネジメントを取巻く状況は大きく変化している。しかし、多くの人が人間の高齢化に関しては社会課題と認識する一方、インフラ老朽化を身近な危機と捉えている人は少ないように感じる。
つい最近、八潮市で道路陥没事故が発生した。改めて、私たちの生活のすぐ傍までインフラ老朽化が迫っていることに気付いた方も多いだろう。
2. インフラ老朽化の現状
日本には、橋長2m以上の道路橋が約73万橋存在し、2020年時点で全数の約40%が建設後50年以上経過している。今後、老朽化の進行に伴い2030年時点では約55%、2040年時点では約75%との予測である※1)。
実は日本のこの状況、世界初の危機なのだ。1980年代にアメリカでも社会問題としてのインフラ老朽化の対応に迫られていたが、当時のアメリカの人口は増加傾向であった※2)※3)。
一方、日本の総人口は、2008年の1億2808万人をピークに減少に転じ、2050年には1億人を下回ると予測されている※4)。日本は、世界で初めて人口減少とインフラ老朽化の時期が重なるという危機に直面しているのだ。
さらに、日本に存在する全73万橋のうち国が管理する橋梁はわずか5%である※5)。都道府県が約19%、政令市が約6%、市町村が約65%という内訳であり※5)、全橋梁の約7割を基礎自治体が管理している。
このように考えると、人口減少とインフラ老朽化の複合危機の最前線には立つのは基礎自治体と言える。しかし、多くの基礎自治体は、少子高齢化に伴う過疎化の進行や地域の衰退、財源の確保、自治体職員の不足等の課題も抱えている。
これらの解決策として、DX推進が掲げられているが、地方ではデジタル技術導入の遅れも目立っており、インフラマネジメントを行う上で必要なヒト・技術・カネ・情報の4つのリソースを揃えることが難しいのである。
3. どうする日本のインフラ
だからこそ、「どうする日本のインフラ」を真面目に考えなければいけない。
今年度、私は地方公共団体インフラの持続可能性評価指標の考案に取り組んだ。インフラの点検データだけでなく、行政データや財政データを用いて2050年時点の地方公共団体の状況を評価することで1つ1つの自治体への関心が高まった。ある県では、政令市を抜いて1位となった町もあり、市町村の規模だけでは把握できない自治体のポテンシャルや個性を見抜くことの重要さに気付くことができた。
人口が減少することに対して過剰な人口増加論を唱え、地域間のパイの奪い合いによる問題の先送りをしていては事態を一層悪化させてしまう。まずは、現実を受け入れることが重要であろう。
限られたリソースの中で地域、都市、国家機能を維持していくために、インフラやハコモノの絶対数を減らすことは合理的である。しかし、インフラのユーザーは住民、建設や維持管理の費用を負担するのも住民である。
最適化に走り、やみくもに「量」を減らすのではなく、過去と現在と未来、短期と長期、平時と有事という視点を持ちながら、「量」と「質」のバランスを考慮し、住民が求め、地域が必要とするインフラとは何かを考えた戦略をとるべきではないか。
財源、労力、技術、あらゆるリソースが公助の限界に達している日本において、その土地に住む人が積極的に地域の未来を考えて行く姿勢こそ、地域に根付く歴史や文化の継承に繋がるのだろう。他人任せではもはや無理である。
また、これまでは人間が住む場所を変えないことを前提としてきたが、人口減少下において国土の使い方や人間の住み方自体を考え直す時期に達しているのかもしれない。人間がインフラをコントロールするのではなく、インフラや国土に合わせて人間が動くという視点も忘れてはいけない。
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並松沙樹:人口減少とインフラ老朽化の複合危機からの処方箋~第1弾 インフラマネジメントに必要な新・コモンズ~
【参考文献】
※1)国土交通省道路局:道路メンテナンス年報,2022.8
※2)パット・チョート、スーザン・ウォルター(社会資本研究会訳):荒廃するアメリカ,開発問題研究所,1982.9
※3)United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division. World Population Prospects: The 2024 Revision. (Medium variant)
※4)総務省統計局:日本の統計2023,2023
※5)国土交通省:老朽化の現状・老朽化対策の課題,(参照日2025-01-23)