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総固定資本形成から固定資本減耗を差し引いた純固定資本形成について国際比較をしてみます。
1. 純固定資本形成とは
前回は、日本の総固定資本形成、固定資本減耗、純固定資本形成について、経済主体別の推移をご紹介しました。
総固定資本形成や固定資本減耗は、企業が最も規模が大きいですが、その正味の純固定資本形成では企業と政府は同程度でほぼゼロに近い状況という事になります。
近年では家計も企業も政府も、概ね総固定資本形成による固定資産の増加と、固定資本減耗による減少が同じくらいで推移しています。
今回は、純固定資本形成の国際比較をしてみます。
純固定資本形成は、その年の投資である総固定資本形成から、その年に減価した分を示す固定資本減耗を差し引いた指標で、正味で固定資産残高がどのように変化したかを表します。
純固定資本形成 = 総固定資本形成 – 固定資本減耗
純固定資本形成がプラスならばその分固定資産残高が増加し、マイナスならば減少する事になります。
念のため、日本の純固定資本形成をもう一度見てみましょう。
図1 総固定資本形成・固定資本減耗・純固定資本形成 日本
国民経済計算を基に作成
日本の純固定資本形成は、バブル期に増加し、バブル崩壊後は減少傾向が続きました。
リーマンショック後はマイナスになり、その後は少し上昇して近年ではゼロ前後で推移しています。
2. 1人あたり純固定資本形成の推移
国際比較にあたっては、人口1人あたりのドル換算値と、対GDP比がわかりやすいと思います。
まずは人口1人あたり純固定資本形成について、主要先進国の推移を見てみましょう。
図2 1人あたり純固定資本形成 名目 為替レート換算
OECD Data Explorerより
図2が人口1人あたりの純固定資本形成です。
名目値の為替レート換算値となります。
日本の推移は他の主要先進国と比較して特徴的ですね。
バブル期に極端に高まり、当時は金額で見るとアメリカやフランスの3倍程度の水準に達していた事になります。
その後減少傾向が続き、リーマンショック時は主要先進国で唯一マイナスとなっています。
近年の水準もイタリアよりは高いですが、他の主要先進国を下回っています。
他の主要先進国は概ね一定範囲で推移していて、少しずつ固定資産が蓄積されている様子がわかります。
特に韓国とカナダは2000年代から増加傾向となっています。
3. 1人あたり純固定資本形成の国際比較
続いて、OECD各国の1人あたり純固定資本形成を国際比較してみましょう。
図3 1人あたり純固定資本形成 名目 為替レート換算値 2022年
OECD Data Explorerより
図3が1人あたり純固定資本形成の2022年の国際比較です。
図2のように、アップダウンの大きな指標を特定の年で切り出して比較していますので、参考程度に眺めていただければと思います。
上位にはルクセンブルク、ノルウェーなどの経済水準の高い国が並び、カナダ、韓国、アメリカも平均値を上回ります。
一方で、イタリア、フランス、イギリス、ドイツは平均値を下回り、やや程度が低い方になるようです。
日本はほぼゼロで、アイルランド、ラトビアに次いで水準が低い事になるようです。
アイルランドは近年経済水準が急激に上昇している国です。
2019年と2020年に総固定資本形成が極端に増加していて、その後減少しています。
固定資本減耗は残高に対して緩やかに増加していきますので、ここ数年では純固定資本形成が大きくマイナスで推移しているようです。
4. 純固定資本形成 対GDP比の推移
人口1人あたりのドル換算値は、国際的に見た水準の高低の比較となります。
各国で経済水準が異なりますので、対GDP比とすることでその国の中での純固定資本形成の相対的な割合を可視化してみたいと思います。
図4 純固定資本形成 対GDP比
OECD Data Explorerより
図4が純固定資本形成 対GDP比の推移です。
日本は1980年代から1990年代後半にかけてかなり高い水準が続いたようです。
当時はGDPの15~20%もの割合で毎年固定資産が増加し続けていた事になります。
他の主要先進国は5~10%程度で、近年ではやや低下傾向となっていてカナダ以外は0~5%程度で推移しています。
近年の日本の水準は相対的に低いようです。
カナダが比較的高い水準が維持されている事と、韓国がやや低下傾向ながらも10%を超えているのも印象的ですね。
5. 純固定資本形成 対GDP比の国際比較
最後に純固定資本形成 対GDP比の国際比較をしてみましょう。
図5 純固定資本形成 対GDP比 2022年
OECD Data Explorerより
図5が2022年のOECD各国の純固定資本形成 対GDP比です。
上位は韓国や東欧諸国が並びます。カナダも相対的に高い水準である事がわかります。
概ね3~7%程度の国が多いようですが、ドイツは1.8%とやや水準が低いのが印象的です。
日本は-0.1%で下から3番目の水準となります。
6. 日本の純固定資本形成の特徴
今回は、各国の純固定資本形成について人口1人あたりのドル換算値と、対GDP比での比較をご紹介しました。
自国のデータだけを見ているとわかりにくいですが、国際比較で相対化してみると日本の特徴も良くわかりますね。
日本は少なくとも1980年代から1990年代後半にかけて相対的に大きな純固定資本形成の水準となっていたようです。
固定資産(土地以外)への投資が、減耗分を大きく上回って、その分だけ固定資産残高が増えていた事になります。
逆に、2000年代以降は相対的に低い水準となっていて、固定資産の蓄積というよりも、その維持が続いているといった印象です。
他国は少しずつ蓄積を増やしていることになりそうです。
日本の特徴が良く表れていて興味深い比較でした。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。