「不安という名の人生コスト」は非常に高く付く

黒坂岳央です。

日本人は、世界的に見て「不安を抱きやすい国民」として知られる。これは単なる噂レベルの話ではなく、科学的に証明されていて日本人の多くが「不安遺伝子」と言われる「セロトニントランスポーター遺伝子」のS型を持つことで知られる。

日本人が将来に対する不安を感じやすいのは、単なる文化的な問題ではなく、このように生物学的な要因も関係しているのだ。

もちろん、不安を感じることは悪いことばかりでない。人生を安定的に生きるために、堅実、安全な戦略を構築することにつながるのはメリットもある一方、「不安を解消するためのコスト」は非常に高くつくこともまた事実なのだ。

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「備え」に莫大なお金と時間を使う人たち

将来不安が強いと、まだ起きてもいない問題に対して過剰な備えをしてしまいがちだ。実際、多くの日本人が必要以上に貯蓄し、過剰な保険に加入し、若いうちから老後資金の準備に走る。今ならNISAへの積立投資などだろう。

適切な資産運用はさておき、資産最大化だけが目的化したような行動は合理的かは疑わしい。すでに何度も過去記事で述べている通り、将来への過剰な備えで死ぬ直前に人生最大のお金持ちになっても何の意味もない。使い切れない資産の分、人生後半の労働はすべて「タダ働き」したようなものだからだ。

もちろん、仕事が好きで一生懸命働いて気がつけば蓄財が進んでいた、ということなら何の問題もない。問題は蓄財を優先して、若い時間を差し出してしまい、もはや二度と若さから価値を引き出すことができなくなってしまうことである。

これだけは絶対に避けなければいけない。若さだけはお金で買うことはできないからだ。「老後不安で」という10代、20代の若い人に、「今すぐ100億円あげるから60代になるか?」と問われたらほぼ全員の答えはNOのはずだ。つまり、若さはお金で買えない価値があるのは明白である。

若さの真の価値

若いうちは経験や挑戦にお金を使うことで、人生の幅を広げることができる。いや、若いうちにしかできないことはあまりにも多い。

人生を生きてきて感じる「若さの価値」は何か?と問われれば、筆者は「真っ白なこと」と答える。自分の子供たちを見ていてもそう感じる。

知識や人生経験というのは、入っていく一方であり、一度身につけた価値観はもう後から削除することはできない。人生経験はあればあるほど良い、と思う人もいるだろうが、歪んだものの見方、偏見、思い込みといった生きづらくなるものもあり、一度獲得してしまうと手放したくても非常に難しくなる。

一方で子供や若者はそれらがない。彼らは真っ白なのでやりたいことは何でもやる。もちろん、たくさん失敗するしたくさん経験値を稼ぐ。だが、その結果想定外に上振れすることも山ほどある。これが人生を輝かせる。

筆者も思い返せば、心臓が凍るような恐ろしい体験やリスクテイクもしたが、恥もかき、同時にチャンスも手にしたことも何度もあった。だが、今は経験値がそれなりにあるので、若い頃のような思い切ったチャレンジはなかなかやりづらくなっていると実感する。

こうやって人は衰えていくのだと痛感している。少しでも抗うため、必死に自己投資を続けているが20年前の自分ならもっともっとスピーディーに、かつ遠くへいっただろうと思わずにはいられない。

若い間はとにかく経験と自己投資にフルイベンストメントするべきだ。若い感受性、真っ白な間にやりたいことをすべてやりきってしまうくらいでいいのではないだろうか。筆者は30歳まで蓄財は0に等しく、代わりに自己投資と経験にフルイベンストメントしていたが、全く後悔はない。

結婚も子供を持つことも何の戦略もなかった。ただただ好きだから結婚したし、昔から子供好きだったので深く考えず子供ができた。でも今の自分ならあれこれと注意深く計算し、まだ起こってもいないリスクばかり考えてきっとこうした機会を逃してしまったのではないかと思う。不要な知恵が付く前の、真っ白な内にこうしたライフイベントを終えることができたのは良かったと思う。

最後は達観せよ

そうはいっても、将来不安はどうしてもある。これはどうすればいいのか?

筆者の考えとして、「達観」すればいいと思っている。老後はどうしても収入減や働く時間も減ってしまう。だが、老後不安ならずっと働き続ければいいだけである。実際、多くの日本人は定年退職後も社会とのつながりや、老化防止、生きがいのために働き続けている。

人によっては現役時代の技術を教える教室や教師になる人もいる。たとえば子供向けの電子工作教室を開いたり、エンジニアが地域の子供向けプログラミング教室を作ったりというイメージだ。老後に備えるのは働かずに生きていくための「資金」より、ずっと社会貢献できる「スキル」ではないだろうか。

若いうちに過剰に老後資金を貯めることに固執する必要はない。日本はこれからも労働力不足が続く。なら働き続ければいいだけだ。

「体を壊したらどうするのか?」という意見もあるが、そうならないために若い内から体力づくりをすればいい。それにどうしようもない不治の病にかかったなら、最後は潔く散ればいいのではないか。年を取った後にかかる致命的な病気は半分、寿命みたいなものだ。数十年蓄財してその治療に全力で備えるより、精一杯生きてどうしようもない時は散ればいいのだ。

将来の備えは大切だが、今を犠牲にしてまでやる価値はあるのか?不安を解消するために、莫大な投資を続けることはどうしてももったいないように感じてしまうのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。