2月24日のロシアのウクライナに対する全面侵攻から3年を迎える日にあわせて、国連で二つの決議が、安保理と総会で採択された。
国連総会での採決のようす 国連動画より
安保理決議2774は、3年間で初めてウクライナ情勢をめぐって採択された安保理決議だ。安保理が決議を出せなかった理由は、ロシアが持つ拒否権であった。つまり今回は、ロシアが拒否権を発動せず、10カ国の賛成多数で、採択された。5カ国の欧州の常任・非常任理事国が棄権をした。
これについてメディアは、米欧の亀裂が露呈、あるいはアメリカがロシアにすり寄った、といった見出しで報じている。そのような言い方もできるかもしれないが、欧州が孤立している、という言い方もできるだろう。欧州以外の諸国は全て賛成した。安保理理事国総数15カ国の3分の1にあたる5カ国が反対したわけだが、全て欧州諸国であった。常任理事国であるイギリスとフランスに加えて、三カ国の枠を欧州が持っているのは、安保理の構成として、過剰配分気味であるだけだ。
このアメリカが提出国となった安保理決議の内容は、「ロシア共和国・ウクライナ紛争」の終結を求めるものである。ロシアの「侵略」についてふれず、したがってロシアを非難しているわけでもない。戦争の終結を求める内容だ。現在、アメリカのトランプ政権が、積極的な停戦交渉に乗り出している。これをロシアが好感しており、中国も支持している。今回の安保理決議は、トランプ政権の停戦交渉努力を後押しする意味を持つことは言うまでもない。
ちなみにイギリスとフランスは、国連憲章の規定で、三大国と同様に拒否権を持つが、長期にわたって行使していない。両国が最後に拒否権を行使したのは、アメリカと共同で行った1989年までさかのぼる。単独での拒否権行使は、フランスが1976年、イギリスが1972年にまでさかのぼる。外交上の立ち位置だけでなく、総合的な国力の国際的な評価があり、両国は事実上安保理で拒否権を行使しない国になっている。
両国は、今回の安保理決議の内容に不満があったと想定されるが、半世紀ぶりに欧州単独で拒否権を発動するような行為は慎んだ。三大国が意思を固めている状況で、あえて欧州諸国だけで拒否権を行使するようなことはできなかった、という描写もできる。
国連総会で採択された決議(A/ES-11/L.10)は、ロシアの「侵略」を非難する内容であった。ウクライナと欧州諸国が中心になって決議案を提出した。賛成93カ国、反対18カ国、棄権が65カ国であった。国連加盟国総数は193カ国なので、17カ国が投票そのものを回避したことになる。国連加盟国数の過半数に到達していないのに決議が採択されたのは、投票総数の過半数が賛成であれば採択されるためである。
言うまでもなく、賛成票を投じた諸国の中心は、欧州諸国であった。それに2022年・23年の同趣旨のロシアの「侵略」を非難する決議に賛成した日本や韓国などのアメリカの同盟諸国や友好国が残った。しかし2022年・23年の決議が141カ国の賛成票を集めたのと比べると、48カ国が賛成票の陣営から離脱したことになる。アメリカがその中の一国であり、棄権も選択せず、反対にまで回った。
棄権と無投票をあわせた83カ国が、賛成も反対もしなかった。ロシアの「侵略」を認める投票行動を避ける一方、安保理決議で示された戦争終結への努力を支持する立場から、そのような中立的行動をとったのだと思われる。
反対したのは、ベラルーシ、ブルキナファソ、ブルンジ、中央アフリカ共和国、北朝鮮、赤道ギニア、エリトリア、ハイチ、ハンガリー、イスラエル、マリ、マーシャル諸島、ニカラグア、ニジェール、パラオ、ロシア、スーダン、アメリカ合衆国であった。
従来から総会決議に反対してきたのは、ロシアに加えて、ベラルーシ、北朝鮮、ニカラグアである。シリアは、アサド政権崩壊を受けて、棄権に回った。
今回新たに反対陣営に加わったのは、まずはアフリカ諸国だ。ブルキナファソ、ブルンジ、中央アフリカ共和国、マリ、ニジェールは、いわゆる仏語圏諸国である。フランス軍を追い出してワグネルを入れている「サヘル諸国同盟」の三ヵ国がその典型だ。マリは、ウクライナの同国への介入に抗議する訴えを、安保理に提出したこともある。その他のアフリカの反対票を入れた諸国であるスーダン、赤道ギニア、エリトリアは、自国の外交的立ち位置の計算から、ロシア寄りの立場を強めている諸国だ。
今回注目されるのは、イスラエルが、アメリカに追随する意図であるのか、反対票を投じたことだ。常にイスラエルを擁護する投票行動をする太平洋島しょ国の中からマーシャル諸島とパラオが追随した。
やはりアメリカに追随したと思われるのが現在アメリカの財政支援でケニアを中心とした国際部隊を受け入れているハイチである。欧州の大勢と明確に異なる立場をとり続けているハンガリーも、反対票を投じた。
安保理決議と総会決議を合わせて見て整理できるのは、アメリカのロシア・ウクライナ戦争の停戦に向けた交渉努力は、国際社会の広範な支持を得ている、ということだろう。
日本のメディアのバラエティ番組などに出てくる「識者」のトランプ嘲笑だけを見て、国際情勢を理解して気持ちに浸るのは、危険である。
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