オーストリアで3党連立の新政権発足へ

アルプスの小国オーストリアで27日、中道右派「国民党」、社会民主党、リベラル派「ネオス」の3党は連立政権を発足することで合意した。新政権の閣僚が決定し、ネオスが3月2日の党総会で連合参加の承認を得たならば、3日にも新政権が正式に発足する運びだ。3党の連立政権は同国では初の試みだ。新政権の任期は5年。

次期首相の国民党党首のクリスティアン・ストッカー氏、国民党公式サイトから

新政権発足は難産だった。国民議会選挙が昨年9月29日に実施された。投票結果で第2党の「国民党」が主導となって社会民主党、そしてリベラル派「ネオス」の3党が連立交渉を始めたが、ネオスが離脱。次に国民党と社民党の2党、そして国民党と第1党の極右「自由党」の2党の連立交渉が次々と行われたが、いずれも合意に至らずに終わった。自由党は新たな選挙の実施を要求したが、国民党は一度は破綻した社民党とネオスとの3党連立交渉を再開し、ようやく連立政権の発足にたどり着いたわけだ。総選挙から新政権合意まで5カ月余りが経過した。同国では最長記録だ。
(国民議会選挙の結果、極右政党「自由党」が約28.8%の得票率で連邦レベルで初めて第1党に躍進。「国民党」は26.3%、社会民主党21.1%、リベラル政党「ネオス」9.2%、そして「緑の党」8・3%だった)

3党が合意した政府プログラムは「今、正しいことを、オーストリアのために」というタイトルで210頁に及ぶ。国民党のクリスティアン・ストッカー党首(64)、社民党のアンドレアス・バブラー党首(52)、ネオスのベアーテ・マインル=ライジンガー党首(46)は27日、ファン・デア・ベレン大統領に最終的な政府樹立のプロセスを報告した後、記者会見を開き、政府プログラムを発表した。

政府プログラムは「合意と実用性」を重視、「大切な点は党の利益のためではなく、オーストリアのために」をキャッチフレーズにし、3党間の連携の重要性を記している。閣僚ポストは国民党が首相、内相、経済相、国防相など6閣僚、社民党は副首相、財務相、法務相など6閣僚、ネオスは外相と文相の2ポストを得る。そのほか、7次官級(国家書記官)ポストが予定されている。

以下、オーストリア国営放送のヴェブサイトの記事を参考に、政府プログラムの概要を紹介する。

財政問題では、政府はEUの財政規則に基づき、財政健全化を進める方針だ。今後7年間で財政の健全化を図る。2025年の予算は63億ユーロ、翌年26年は87億ユーロ(約1.5兆円)となっている。

移民政策で、内務省を担当する国民党が主導となって厳格な政策を実施し、家族の呼び寄せを一時的に禁止し、14歳未満の未成年者(イスラム教徒の女性)のスカーフ着用禁止が明記されている。

ちなみに、オーストリア南部ケルンテン州のフィラッハで2月15日、23歳のシリア人がナイフで路上の通行人を襲撃し、1人の14歳の男性を殺害、5人に重軽傷を負わす事件が起きたばかりだ。カルナー内相は16日、フィラッハで記者会見を開き、「容疑者はイスラム過激テロ組織『イスラム国』(IS)シンパで、犯行は宗教的動機に基づくテロだ」と説明した。家宅捜査された容疑者の家にはISの旗があった。カルナー内相は新政権でも内相を務める予定だ。

社会政策では、貧困対策の一環として「子ども基礎保障」を導入し、2030年までに子どもの貧困を半減することを目指す。現在の社会保障制度は「新・社会保障制度」に改定され、統一の給付額を設けること、家賃値上げの凍結などが記されている。

オーストリア軍の強化計画は継続され、欧州の防空システム「スカイシールド」にも参加する。公共放送(ORF)の受信料は据え置き。自由党は受信料の廃止を強く要求してきた。また、学校給食の充実、幼稚園の2年義務制などが挙がっている。

教育分野では、ネオスが主導となって教育改革を実施、学校でのスマートフォン禁止と全日制学校の拡充保護者の責任を強化し、学校での問題児、生徒に対する対応の厳格化などが目標となっている。

同国の議会政党は5政党で、国民党、社民党、ネオスの3党が与党、自由党と緑の党の2党が野党となる。なお、自由党は総選挙では第1党に躍進し、キックル党首は国民党との連立交渉を行ったが、内相のポストを主張し、国民党との間で閣僚の分割問題で妥協を拒否したため、連立交渉が暗礁に乗り上げた経緯がある。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。