ビジネスの当たり前が当たり前ではなくなる時代

CHUNYIP WONG/iStock

わが社で経営しているマリーナの話。つい数年前まではウェイティングリストに10年分ぐらいの潜在顧客を確保していたのですが、この1年で様相は様変わりしています。カナダの景気不透明感があることと最近は下がったものの高金利で企業業績も冴えない中、富裕層がボートを売りに出しているのです。一時期はボートの売却時にそれなりのキャピタルゲインが得られたこともあったのですが、今ではカツカツぐらいでしかも売却までに半年から場合によっては1年ぐらいかかっています。売りたい人は苦労しています。

4月からの新年度分の年度契約はほぼ完了しましたが、マリーナが不足による停泊料つり上げ競争は沈静化するとみています。停泊料は3年ぐらい前までは近辺ではわが社が一番高かったのですが、いつの間にか抜かれていて今では地域一番安です。10年待ちが当たり前だったマリーナ業界もボート乗りが金食い虫だということもあり、環境が確実に変化してきているのかもしれません。

東京に滞在していた時、高校生に「どこで遊ぶのか」と聞いたところ映画、カラオケと我々の時代と変わらない答え。では「家電量販店でぶらつくことはあるのか?」と聞けば「しばらく行っていない。仲間は誰も興味ない」と。週末の家電量販店がごった返していたのが懐かしいのですが、その勢いは果たして今後も維持できるのでしょうか?2000年代から20年近く続いた「ガジェットの時代」は取捨選択の時代になった気がします。つまり家電量販店に行けばジャパンメードのユニークで工夫を凝らした商品がずらり並び、客は舐めるようにそれを見て歩いたものですが、、近年は目新しさが無くなったのか、目的の商品にまっしぐら。

 

そんな中、驚いたのが池袋のLabiヤマダデンキ。店内エレベーターのゲーム売り場のフロアの案内にはずばり「ガンダム」。なんとガンダムが冷蔵庫やテレビと同列で記述されているのです。以前来た時もガンダムのプラモデル(ガンプラ)をそこそこ扱っていたのですが、今回行くと「おぉー!デカい売り場!」。そこをうろつくのはいかにもオタク系の男性陣。なるほどこれも現代風売り場づくりなのでしょう。隣のビックカメラのガンダムコーナーがとてもしょぼく見えました。ガンダムのプラモデルがなぜいまさらと思うでしょう。ここカナダにもガンダムだけを扱っている専門店はいくつかあるのです。それだけ消費者は的を絞っていてなんでも扱っていてはダメだということでしょう。

コメの話。昨日、米が無くなったのでスーパーに行くといつも買うカリフォルニア米は6.8㌔で約1500円。つまり5㌔換算で1100円、安いです。ふと横を見るとメード イン ジャパンのコメがあるわあるわ、いつの間にこんなに増えたのか、というぐらいです。山形、新潟、秋田から北海道産まで価格は新潟産を除き5㌔3300円。確か日本で3600円ぐらいだった気がするので日本よりカナダの方が安いということになります。アメリカでも日本米が溢れているという話を聞くので日本で騒いでいる「消えたコメ」は輸出された可能性が高いと思います。日本米の需要は北米より中国など東アジアの方がはるかに高いはずで相当量が「海外流出」した気がします。ちなみにメード イン チャイナの米もスーパーに売っていて、いかにも高級そうなパッケージに圧縮梱包してあり5㌔2000円程度。見た目だけならはるかによさげでした。

ふと思い出すのが6-7年前、東北の某県が「わが県のコメを買ってください」と当地でキャンペーンに精力をあげていたことです。その頃は日本の食品を海外で売り出していきたいという農水省の肝いりもありました。少子化の上にパン食や麺類の消費が増え、米の消費が伸びないので海外に販路を見出そうという話でした。一方で農水省は減反も指導し、「コメの消費は減る見込み。だから需給ギャップ分を輸出に回す」という方針だったと思います。それが気候変動や減反に農家の減少で供給が極端にブレるというリスクを考えなかったのか、一種の二律背反の農水省の政策がマズったのか、いずれにせよ、米は売れないとか価格維持が必要だという当たり前はすっかり裏目に出た格好です。

当たり前が当たり前ではなくなる時、必ず失敗を伴います。当然私もいくつかのケースで「あれぇ、潮目が変わったのかな?」と感じることはよくあります。それが潮目だけならまた元に戻るのですが、そうではなく、ギアチェンジで常識感が変わっていくということがあるのです。私もなるべく将来見通しはするようにしていますが、世の中の動きが全部正確に読めるわけではありません。

例えば今、予見しているのがアニメの売れ線が変わってきている点です。日本から世界レベルでヒットするめぼしい作品が1年ぐらい出ていないこと、流れはゲーム系キャラかVチューバ―系で中国、韓国発の作品に焦点が当たっていること、アニメ関連グッズに目新しい商品がないことなどを前線にいて肌で感じています。東京にいた時にはBLのコーナーなどで女子高生同士の商品に対する会話を小耳にはさみながら丁寧に見て歩いてきたのですが、今は買うより見る、イベントに参加する、といった体験型にシフトするか、上述したようにガンプラでプラモデルに精を出すといった感じなのです。日本といえばアニメと思っている方が大半でしょうが、その中身は確実に変わりつつあります。

時代の流れが早い点はこのブログを通じて長年指摘してきたと思います。それがあらゆる方面に波及してきており、昨日の常識は今日の非常識に近い状態にすらなってきている中、経営のかじ取りの難しさと共にビジネスの「賞味期限」が異様に短くなりつつあるとみています。我々は常に先をみてリスクを取っていかないと勝てないどころか生き残れないという気がいたします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月4日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。