ガソリン減税はインフレの火に油を注ぐ(アーカイブ記事)

ガソリン減税(暫定税率の廃止)を年内に実施することで与野党6党が合意した。しかしアベノミクスを推進していた浜田宏一氏や、ノーベル賞候補ともいわれる清滝信弘氏がこれに反対し、ほとんどの経済学者が「インフレで減税してはならない」と反対している。

インフレの最中に減税してはならない

暫定税率はリッター当たり25.1円で、この廃止が国民民主党の従来からの主張だった。昨年12月の自公国3党合意で、2026年4月からの実施が決まったが、国民民主はこれを前倒ししろと主張し、それに他党も合意した。

だがインフレの最中に減税してはならない。これは公務員試験にも出るマクロ経済学の基本だ。ガソリンの価格は一時的に下がるが、これによって可処分所得は増え、消費が増える。マクロ経済的には減税分(1.5兆円)の超過需要が発生し、物価が上がる。

インフレのとき政治家は「生活支援」と称して減税やバラマキをするが、それはインフレを加速し、結果的には実質賃金を下げて国民は貧困化する。これは1970年代のスタグフレーション以来、経済学の常識である。

まして今は、長期金利が1.6%に上昇して財政危機が顕在化している。日銀が利下げを見送ったことで円安になり、バラマキ志向の高市政権を債券市場も警戒している。こんな環境で減税したら、円安が加速するだろう。

ガソリン減税はパリ協定違反

もう一つは、世界的に資源インフレが進行している時期に、化石燃料の消費を拡大してはいけないということだ。日本のガソリン価格(税込み)はOECD38ヶ国のうち下から4番目である。日本より安いのは産油国だけだ。暫定税率が50年以上続くのはおかしいというなら、恒久税率に変えるべきだ。

この図を見ればわかるように、ヨーロッパのガソリン税は100%近い。これは炭素税をかけているからだ。日本政府が約束した「2035年に温室効果ガス60%削減」というパリ協定の約束(NDC)を実現するには、少なくとも150%のガソリン税が必要だ。ガソリン減税はパリ協定違反である。

パリ協定は空文化しているので、そんな約束を守る必要はないという立場もありうるが、それでも炭素税は必要だ。他の補助金をやめて炭素税だけで環境負荷を最適化することが望ましい。国民民主党が炭素税に反対だというなら、そういう立場を明らかにし、パリ協定からの脱退を提案すべきだ。

「インフレ税」で国民は貧困化する

昨年の総選挙で「103万円の壁をなくして手取りを増やす」という公約が大当たりした国民民主はなりふりかまわず減税を主張する減税ポピュリズムの党になった。国民民主の自動車労連出身の議員は「財源は自動車メーカーから取るな」と言っている。あからさまな利益誘導である。

かつての「デフレ脱却」に代わって最近は「減税で手取りを増やす」が万能のスローガンになっているが、これもデフレ・ゼロ金利時代の遺物である。歳出を削減しない限り、減税は財政赤字を増やし、税負担を後の世代に先送りするゼロサムゲームにすぎない。

需要不足のとき需要を追加する効果はあるが、今は完全雇用でインフレである。この状況で特に不足している化石燃料の需要を追加するとインフレ税が上がり、自動車をもたない貧困層の実質所得が下がる。

世界的にトランプ政権の関税政策でインフレ圧力が高まっているとき減税するのは、嵐の中で窓を開け放つようなものだ。石破政権は減税ポピュリズムを拒否し、財政規律を守るべきだ。