2月中旬、今年は雪が多い山形県を旅しました。
山形県は温泉の多い県です。有名どころでも蔵王、銀山、肘折、天童、赤湯。各自治体ごとに温泉地があると言っていいほど温泉が湧き出ています。
私は山形県内の温泉は結構訪ねたことがあるのですが、今回の旅ではまだ訪ねたことがない温泉地に行ってみようと思いこの場所を選びました。
山形市の南にある上山市。「うえやま」と読んでしまいがちになりますが「かみのやま」市です。その中心駅、かみのやま温泉駅で下車します。もともとこの駅は「上ノ山」駅だったのですが、山形新幹線が開業したときに現在の駅名となりました。
上山市なのに駅名を「上ノ山」とするのは国鉄が読み違えをしないように「三ノ宮」や「一ノ関」のように「ノ」を入れる暗黙のルールがあったからですが、「ノ」を入れたところで「うえのやま」と読み違える人は相当いたと思うので、何の解決にもなっていないなと思いました。ひらがなへの変更が正解です。
上山は上山城のもとで栄えた城下町です。今の天守は昭和に入ってから改めて建てられたものですが、駅から少し歩けばこのように立派な天守を望むことができ、町のシンボルとなっています。
夕方の訪問で中に入ることはできませんが近くまで来ることはできました。白壁の美しい城でその白が雪景色によく似合います。戦国時代は当地の大大名であった最上氏の最南端の拠点となり米沢の上杉氏との攻防の最前線になったこともあるそうです。
城は少し高くなった場所にあり、そこから雪化粧した街並みを見下ろします。向こうに見える蔵王連山が美しいです。低層の住宅が並ぶ中、向こうに武蔵小杉もびっくりの超高層マンションがあります。このマンションはスカイタワー41と呼ばれる41階建てのマンション。仙台にもこんな高層マンションはないらしく、東北地方で最高の高さを誇るマンションだそうです。
その姿は山形新幹線からも見ることができ、その姿はかなり異彩を放ちます。上山の新名物です。
上山城に隣接し、春は桜が美しいという月岡神社も雪で覆われてしまっています。人が歩いて行った跡はあるものの雪で埋もれて人が来るのを拒んでいるかのようです。城の北側には武家屋敷が並んでいるというのでそちらに行ってみます。
武家屋敷は坂道に沿って4軒並んでいました。上山城周辺は小高い丘のような形状になっており、このような坂道がいくつもあります。坂道散歩は大好きなんですが、ここは雪国。路面の凍結に気をつけていないといけません。
茅葺屋根の農家のような出で立ちですが、立派な武家屋敷です。現在もその子孫の方が住んでいるお宅もあるようで、拝観できるのはここにならぶ4軒のうち三輪家の一軒だけです。リフォームはしていると思われますが江戸時代からこの場所で先祖代々この土地を守り続けてきました。
ちなみに武家屋敷のある周辺の地名は鶴脛町。「つるはぎちょう」と読みますが、鶴の脛(すね)の意味です。1458年、脛を痛めた鶴がこの場所で傷を癒しているのを見かけたことから温泉を発見したことが上山温泉の始まりとされています。
武家屋敷の近くにある「鶴の休石」と呼ばれる場所。ここで鶴が羽を休めていたのだといいます。ここがまさに上山温泉発祥の地。上山は温泉地として開け、その後城が築かれて城下町としても発展していったのです。
鶴の休石の隣には足湯も併設されています。鶴の気持ちになって脛を温めるのもいいでしょう。
温泉街こそさほど大きくはないですがこのような木造建築が立派な温泉旅館や、
開湯はなんと1624年という下大湯。
何ともレトロな外湯もあって、昭和レトロを感じながら街歩きを楽しむことができました。
蔵に描かれたイザベラバードさん訪問の記録の絵
イギリス人女性探検家で日本国内を旅したイザベラ・バードさんは1878年に上山温泉も訪ねているそうですが、ここがもっと訪問しやすい場所だったら健康的な保養地になっただろう、と称賛の言葉を記しています。彼女は歯に衣着せない毒舌家でしたが、上山を含む山形県については東洋のエデンの園と称するなどかなり気に入った場所であったようです。
わたしがお世話になったのはステイイン材木栄屋さんという旅館でした。後ろにも有馬館という旅館がありますが、やや大きめの旅館は先ほど紹介した鶴の休石とは少し離れた「新湯」と呼ばれるエリアにあります。上山温泉は鶴脛町や新湯のほか十日町、高松など7つの地域からなる温泉の総称です。
ステイイン材木栄屋さんに投宿し、雪道を歩きまわったあとの冷えた体を温めます。さっぱりとしたお湯は赤ちゃんでも安心して入れると言われる優しい泉質です。塩化物泉なので湯冷めしにくく寒冷地の温泉として最適なお湯でもあります。
湯上り、ロビーでワンコインで地酒や地ワインを楽しめるコーナーがありました。山形は地酒もおいしいですしワインの産地でもあります。500円かかりますがこれはうれしいサービスです。
というわけで暫く部屋に帰らずワインを堪能しました。初めて訪ねた上山。決して大きな町ではありませんが城も温泉も市街地の中にまとまってあって旅をしやすい町だと感じました。山形市内に泊まるのもいいですが電車で15分ほどでアクセスできます。せっかくなら城を眺めた後に温泉に浸かれる上山に来るのがいいのではないかと思いました。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。