「受けることばかりやると国滅びる」 by 石破首相:立ちすくむ自民党と日本国民

石破首相が自民党の党大会前の党会合で「受けることばかりやると国滅びる」と述べたのが大きく報道されていました。たった15文字のこれだけの言葉ですが、私はピッと反応しました。なぜ石破首相がこのような言葉を「吐いたか」、そして社会は何を望み、何処に向かうのか、とても深い考察ができると思います。

石破首相インスタグラムより

確か石破氏の就任100日目前後の頃だったと思いますが「首相の仕事は思った以上に大変だ」といった趣旨のことをインタビューで述べていました。あまり話題にはならなかったのですが、様々な圧力や異見、異論で調整も大変なのだろうと察していました。特に石破氏は首相になるまではセンターステージから離れた蚊帳の外で閣僚にすら長くなっていなかったわけで、政権運営の緊張感からはだいぶ遠ざかっていたのです。それが突然トップスピードで物事をこなしていかねばならないのですからご苦労されているのだろうと感じたのです。

おまけに社会の変化のスピード、人々の価値観、世の中の環境が急速に変わったこともあるでしょう。

顔には出さないけれど苦悩する石破首相にとって高額療養費の見直しを迫られたのは精神的ダメージが大きかったはずです。衆議院は通ったものの参議院でケチが付き、本年度分の見直しだけは意地でも通すはずが、取り下げざるを得なくなったのです。一般に首相の手腕の一つは年度内に次年度の予算を国会で成立させることだとされます。3月中旬に差し掛かる今、新年度予算は年度内に通過するとは思いますが、その内容はとてもじゃないですが、与党としては自慢できるものではないでしょう。

これを少数与党という理由だけに求めてよいのか、ここは皆さんと一緒に考えてみたいところです。海外の事例を見てもそうですが、国民の主義主張が割れやすくなっている、これが今の傾向です。政党も多くなりがちで選挙をしても一つの党が過半数を取るケースは少なくなり、連立せざるを得ません。ところが連立しても自民と公明のような熟年カップルならともかく、多くの場合、お互いの色を出そうとするため、政権は常にリスクを抱えています。ある意味、日本もこの少数与党という経験ができるのは政治家のみならず、国民すべてが政治を考える良い機会だと思うのです。

その中で首相が「受けることばかりやると国滅びる」と述べたのは本音が出たな、と思うと同時に相当苦しい心境にあると感じました。

先日、所属する団体のセミナーで東大名誉教授の御厨 貴氏の1時間にわたる講義があり、非常に興味深く話を聞かせて頂きました。御厨氏は政治学の第一人者であり、今回の講義では派閥政治について述べられました。端的に言えば自民党は派閥ありきの政党運営であり、それぞれの派閥から順番に首相につく仕組みがあることで党内活性化が起きていたと。ところが派閥の歴史を作った池田隼人氏の宏池会から始まる「首相の交代制度」を同じ宏池会の岸田氏が中途半端に消滅させた意味は大きいと述べています。

私が「自民党の時代ではない」とか「割るべき」と述べている背景にはこの暗黙の首相交代制=短期間で首相が変わることを容認する時代ではないという意味もありました。あたかも400メートルリレーで走者が決まっているような政治なのです。その中で自民党の基礎力と思われる派閥が中途半端に解消されてしまい、党内力学がさっぱりわからなくなったことが大きいのです。

これが首相のボヤキの背景だとみています。国会の委員会で自民党の佐藤正久氏からも高額医療制度に疑義の声が上がったのは首相にとって相当痛手だったでしょうし、見ている国民からもおやっと思ったでしょう。

政治的に耳障りの良いことばかり出来ない=ポピュリズムからの離脱ののろしなのでしょうか?確かにトランプ政権においてはDOGEが紅衛兵の如く振舞っています。ポピュリズムからの猛烈な巻き返しです。私からすれば「首相は仮にぼやきたくてもそれを言っちゃおしまいよ」と申し上げます。世の中、常に反対派はいるのです。100人が全員賛同などということはあり得ません。

では反対派をどう説得するのでしょうか?飴とムチの使い方次第なのですが、ポピュリズムはいかにも飴だけだったのです。バイデン政権や岸田政権などはその典型。少数与党になった自民党も野党の言うことを聞かざるを得ず、結果として飴だらけになるのです。

では石破氏の言うムチとは何でしょうか?決して財務的なポジションの話だけではなく、クレクレ星人の言うことだけを聞いていたら国の筋力がなくなるだろう、と言いたいのだと思います。石破氏も大変だと思います。しかし私は次の参議院選では政党間の力学がもっとバラバラになる可能性を見ており、その時、日本は厳しいことを決められない国になり、欧州などで苦悩する政治運営と同じ道を辿ることになる気がいたします。

このままでは国は滅びなくても政治力は低下し、迷走してしまいます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月10日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。