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22年間、愛されて仕事が途切れない、人気ナレーター・声優の著者が編み出した、発達障害の特性の「得意」を生かし、「不得意」をカバーするコミュニケーション術。当事者だからこその「あるある!」エピソードと具体的ハックを紹介します。
『発達障害・グレーゾーンかもしれない人のための「コミュ力」』(中村郁 著)大和書房
あなたは人を信じやすいですか
「あなたは、人を信じやすいですか? それとも、疑り深いですか?わたしたちぐちゃぐちゃ人間が、まず持つべきものは何でしょうか」と中村さんは読者に問います。
「まず持つべきもの。それは、『疑う』という考え方です。悲しいことを言うなあ・・・・・・と思われるかもしれません。しかし、わたしたちが深く傷つくことを避けるためには、『疑う』ということは何よりも大切なことなのです」(中村さん)
「わたしは幼い頃から、非常に不安定な環境で暮らしてきました。 0歳で育児放棄され、祖父母のもとへ預けられました。 生後6ヶ月で、一時的に両親の元へ送り返されますが、やはり育てられない、とのことで、再び祖父母のもとへ」(同)
一番大事な愛着形成の時期にこのような状態だったので、子供の頃から「確かなものなどこの世にはない」と感じていたと、中村さんは言います。
「人の気持ちも、愛も、環境も、自分自身の気持ちさえも、変わらないものなどない、永遠に変わらないものなどない、と。自分の心を守るため、安易に人の言うことを信じないように心がけてきたのですが、それでも一度、詐欺被害にあってしまったことがあります」(中村さん)
「あるとき、わたしの大切な友人が、 末期がんであることがわかりました。彼女の命を救うために何かできることはないか、とわたしは様々な本を読んだり、ネットで調べたり。もし自分に何かできることがあるならば、どんなことでもしたい。 本気でそう思いました」(同)
そんなとき、いつもお世話になっている方が、「ガンも治せるお医者さんがいる」と教えてくれました。藁をもつかむ思いで、わたしはそのお医者さんに会いに行きました。
「そのお医者さんは、まず、わたしの体の状態を見たことのない機械でチェック。 お医者さんいわく、わたしの内臓は病魔にやられていて、今すぐそのお医者さんが調合するサプリを飲まないと大変なことになる、とのことでした。恐ろしいトーンで話すその医者の迫力に、完全に呑まれてしまいました」(中村さん)
最終的に、中村さんは夫を連れて行ったことで被害は最小限に収まります。しかし、人の善意につけ込む人(この場合は医師)が多いということでしょう。
普通がむずかしいという話
中村さんは幼いころより体が弱く、癇癪や、過剰に集中し過ぎてしまう「過集中」、さらには物忘れがひどく大変な毎日を送ってきたそうです。大学受験では過集中がプラスに働き、偏差値40を70まで上げて志望大学(同志社大)に合格するも、入学後は華やかな学生たちに馴染めませんでした。
ところが、「過集中」がプラスに働いて、「声の世界」へはいることになります。ナレーターの道を勧められ、大学卒業と同時に現在の事務所に所属しました。ナレーターには高い集中力が必要とされますが、短所を長所として活かしながら活躍している点が興味深いところです。
発達障害を持つ人は、集中力を発揮したり、記憶したりといった、ほかの人にはない得意な能力も兼ね備えていることが多いのです。環境を調整し、上手に工夫して、苦手な部分を補うことができれば、その力をいかんなく発揮し、素晴らしい成果も残せます。
中村さんのファンが急速に増えています。その理由を考えると、中村さんが自身の経験を率直に語っている姿勢が多くの人々の共感を呼んでいるのだと思います。皆さん、ミスを少なく、成果を出せる方法をこの機会に学びませんか。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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