ウクライナ紛争をめぐる、米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領の電話会談が、日本時間の夜中に行われた。米国が提案し、ウクライナが受け入れていた30日間の即時停戦案については、ロシアが同意しなかったが、エネルギーやインフラ施設に関する攻撃の制限で合意した。
トランプ大統領(ホワイトハウス X)とプーチン大統領(クレムリンHP)
好ましい第一歩だが、ロシアがクルスク州でまもなくウクライナ軍の完全掃討に成功しそうなど、陸上戦での軍事的優位が強まる一方、ヨーロッパが軍拡と戦争を辞さない軍国主義化に進んでいるなかでは、両方とも時間が自分たちに味方すると思っているのだろうし、トランプも最終合意の姿について決断がつかなかったということだ。
プーチンがこれまで効果を上げてきたエネルギーやインフラ施設への攻撃を停止したのは、冬も終わって効果が経ているのと、ロシア領内の石油施設への攻撃に手こずっているせいか。
最終的な仕上がりを予想すれば、ロシアが占領地域から撤退することはなかろう。ただし、ロシア領土として認めろとまでは固執しないのではないか。クリミアだけはということはないわけでないが、ほかの四州をウクライナが放棄することは考えにくい。日本の周辺領土と一緒で、最終的な帰属を決めずに和平することは可能だ。
領土については、クリミアは住民のロシア帰属の希望は強いし、きちんとした住民投票もしているから、ウクライナ側にとっても少し違う。
4州については、そもそもでいえば、ウクライナがロシア系住民への差別をしないとか自治を認めるとかし、NATOにはいるとかいわず完全中立だったら紛争は生じなかったのだが、そこまで、戻せるかといわれたら普通には難しい。そうなると、ほぼ、現状維持しか道はない。ウクライナは奪回要求は続けるが現状を事実上容認するのか。
ロシアは四州を併合決議しているし、ウクライナはクルスク州の一部を占領している。しかし、しかし、クルスク州では北朝鮮軍の活躍もあって中心部はロシアが取り戻し全域から撤退するのにも時間がかかるまいし、ウクライナ領内にもそこそこ攻め込まれそうだ。
もし、トランプに花を持たそうとするなら、サポリージャ原発をウクライナに返還することか。
それに限らず、私は鍵になるのは、戦後の平和維持体制と制裁解除を条件とした戦後復興へのロシアの貢献だと思っている。
戦後復興については、日本もそれに莫大な資金など出したくないし、出す必要も無い。だしても、ウクライナ政府の腐敗をみれば無駄金になるだろう。貸したお金も返してほしい。そうなると、ロシアの封鎖された対外資産などがひとつの焦点になる。
経済制裁を解除することを条件に、封鎖されたロシア資金を復興基金に使うのなら誰にとってもそう痛くない。
また、復興には西側企業が主役となっても日本は食い込む余地はあまりないだろう。だとすれば、むしろ、ロシアにインフラ復興などの手伝いをさせたほうが実質的だ。彼等なら、ウクライナのマフィア的組織とだって対抗できる。
平和維持は、ウクライナが将来ともにNATOに加盟しないこととNATO加盟国が平和維持の為にもウクライナに駐留しないことだ。ここのところはロシアは絶対に譲らないだろう。とすると、逆にロシアはウクライナ再侵攻をしない保証として何を提案するかだ。
EUについても、EUが経済だけにとどまるならともかく、ますます政治軍事化するなら加盟をロシアは認めがたい。準加盟みたいなことが限度だろう。
平和維持部隊は、NATO軍は無理とすると、インドなど中立的なところかあるいは中国や日本、オーストラリアなどNATO加盟国でないがそれに近いところかということになる。日本は積極的に協力すべきだと思う。
戦闘に参加しなくても、ウクライナに行けば、戦争のあとを体感できる。それは大事なことだ。なにしろ、北朝鮮兵は近代戦に急速に習熟しウクライナにクルスク州を奪還される致命傷を与えた。日本にとっても北朝鮮軍が最新のハイテク戦争の実戦経験を積んだことは、怖いことだ。ウクライナ支援などして戦争を長引かせたことは日本にとっていいことなど何もない。愚劣な外交だった。
なにしろ、あるウクライナの軍事評論家は、北朝鮮兵の小型兵器熟練度が非常に高く彼らの攻撃や躍動的であり、北朝鮮兵士らに比べれば、ワグネルの傭兵は子どもだと言っていたそうだ。
日本にとってはこの戦争は迷惑のきわみ。さっさと終わったら参議院選挙の見通しも明るくなるだろう。
ウクライナの安全保障をウクライナ側からだけ見ても話はつかない。ロシアから見た場合でも安全になると感じさせねばならない。
そもそも論から言えば、フィンランド、バルト三国、ポーランド、バルカン半島などは中立地帯であるべきだったと思うが、彼らがNATOに入ってしまったあとロシアが安心できる体制は構築が難しい。
しかし、そのあたりの地域のあり方も含めてある程度の再検討もいるのでないか。たとえば、バルト三国について、ラトビアがロシア系住民への弾圧を強化しているとか、リトアニアがこんどの戦争を通じて、ロシアの飛び地であるカリーニングラードへの圧迫を強化したことは、危険な火遊びだと私には見える。
アジアにとっては、台湾や朝鮮半島に影響するなんてどっちに影響するか分からない。台湾の人も米国、日本などがいくら援助してくれても、大陸の人間と戦って英雄だと言われたいなどとて思っていない。現実に台湾でも韓国でも戦争が始まってから議会は与野党逆転だ。
また、ヨーロッパがロシアと敵対を続けるつもりだと、中国をヨーロッパやロシアとも手を組んで封じ込めようという戦略が難しくなる。そうなると、中国への厳しい封じ込めでなく融和路線に傾くことの必然性が出てくるかもしれない。