ジグマール・ガブリエル元外相(65)は「カナダが欧州連合(EU)に加盟することを勧める」と述べた。ドイツ日刊紙ブレーメン紙「ヴェーザー・キュリエ」(5日付)に語った。同氏は今年に入り、1月、3月にも同じ見解を明らかにしている。

「一帯一路」に対して警告を発したドイツのガブリエル外相(ドイツ外務省公式サイトから)
同氏のカナダのEU加盟提案は、カナダがトランプ米政権と経済関係で険悪な関係となってきたことへの代案だ。トランプ氏は1月20日の大統領就任直後、カナダからの対米輸出品に対して25%の特別関税を課すと宣言するだけではなく、「カナダは米国の51番目の州だ」と強調するなど、カナダの政界を罵倒してきた。
トランプ米大統領によって引き起こされた関税闘争を受け、カナダのEU加盟論がここ数週間、特にソーシャルネットワーク上で議論されてきたが、それほど深刻なものではなかった。ちなみに、世論調査機関アバカス・データが2月末に実施した調査では、カナダ回答者の44%がEU加盟に賛成している。
EUのフォンデアライエン委員長の報道官は「カナダ国民の加盟支持はEUにとっても大きな名誉だ」と述べている。トランプ氏から厳しい関税を強いられたEU側としては同じ立場のカナダに対して同情的だ。ただし、EUに加盟できる国はあくまでも欧州諸国に限定されていることから、現時点ではガムリエル氏の提案は非現実的と受け取られている。
ジャスティン・トルドー氏の後任、マーク・カーニー首相は先月27日、「米国との経済、安保、軍事関係の良き時代は終わった」と表明し、米国依存から脱皮し、代わって他のパートナーを探そう」と、国民に呼びかけている。
それに対し、トランプ氏は同日、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、「欧州連合がカナダと協力してアメリカに経済的損害を与えようとする場合、現在計画されているよりもはるかに大規模な関税が両方に課されるだろう」と投稿し、カナダのEU接近に釘を刺している。
ガブリエル氏は外相を退任して以来、時の政治問題で鋭い論評を発表してきたことで定評がある。特に、EUが中国との関係でその対応を苦慮している時、中国が共産党政権であり、共通の価値観を有していないという基本的な相違点を明確にメディアで発表してきた。
ガブリエル氏は2018年2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」(One Belt,One Road)構想に言及し、「民主主義、自由の精神とは一致しない。西側諸国はそれに代わる選択肢を構築する必要がある」と述べた。欧州の政治家が中国の「一帯一路構想」について、単に批判するだけではなく、その価値観、世界観と一致しないと明確に指摘したのはガブリエル氏が初めてだった。
そのガブリエル氏は今、米国の経済的圧力で苦しむカナダに向かって、「カナダのパートナーはもはや米国ではない。EUだ」と呼び掛けているわけだ。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。