3月初旬、はるばる北海道オホーツク海沿岸に流氷を観に行きました。
今年の網走における「流氷初日(最初に流氷を目視観測した日)」は2月15日であり、なんと平年より24日も遅く、最も遅かった1993年よりも5日遅いという統計開始以来の新記録となりました。そして、この流氷が網走に接岸した「流氷接岸初日」は2月17日でした[NHK報道]。
通常、オホーツクの流氷の本格的シーズンは2月中旬から下旬であり、この「流氷接岸初日」はあまりにも遅すぎるものでした。また、流氷の接岸が遅いということは、それだけ流氷の発達が弱いということなので、流氷が消滅するのも早いことが予測されました。3月初めにオホーツク旅行を設定していた私は、流氷を観ることを半分諦めて旅立ちました。ただ、3月上旬に日本列島を襲った寒波の影響で、幸運にも素晴らしい流氷と出逢うことができました。
以下、皆様の旅のご参考になればと思い、旅行記を綴ります。
【第1日】
羽田発の夕方の便で女満別空港に降り立つと、そこはサラサラとした雪が降り積もる真っ白な世界。早速、空港でレンタカー(軽自動車4WDスタッドレス)を借りました。
流氷を観るにあたっては、電車やバスでの移動も考えられますが、旅の時間の有限性はもちろんのこと、旅人の都合とは無関係に紋別〜網走〜知床の各所に現れては消える流氷という自然現象を観るための機動性を考慮すると、レンタカーを利用するのが得策と考えます。もちろん、安全のためには、[YouTube動画1] [YouTube動画2]などで事前に雪道の走り方の注意点を押さえておくことが重要であるかと思います。
実際に雪道を運転した感触としては、急加速・急減速しないこととスピードを出さないことを基本にする限り、車の少ないオホーツクでは、ほぼ安全に運転できるのではと考える次第です。
さて、レンタカーを借りた直後にいきなり遭遇した真っ白な雪の夜道を恐る恐る40km/hで走行。[セイコーマートのホットシェフ]で夕食の[カツ丼]と朝食の[筋子おにぎり]を入手した後、空港近くの[山水美肌の湯]という宿になんとかたどり着きました。
この宿には地元の人も利用する日帰り天然温泉があります。露天の岩風呂には、感涙するほど美しい粉雪が津々と降り注いでいました。ちなみに、気温がマイナス10度を裕に下回っていたので、私以外は誰も露天風呂に現れませんでした(笑)
【第2日】
美しい雪道を車で約30分、一路網走へ。そこには昨日までは沖に移動していた流氷が接岸していました。早速、[観光砕氷船オーロラ号]に乗って流氷の中へ突入です。
約1時間の航海において、船の右舷前方の最下段に立ち、間近から流氷を観察しました。気温は約マイナス5度でしたが、ダウンジャケット+防寒帽子+ネックウォーマーで完全防寒していたため、寒さを意識することはありませんでした。氷と氷がぶつかり合って砕ける時に聞こえるアコースティック・エミッションは、まさに重低音であり、最高の迫力でした!
ド肝を抜かれたのは、パノラミックに目にすることができる水平線ならぬ「氷平線」です。その空間にあるのは海ではなく、米国中西部やアルゼンチンにあるような、どこまでも続く大平原という認識です。スペクタクルな光景(「風景」というよりは「光景」というのがしっくりきます)を観ることができた幸運に心から感謝しました。
さて、流氷の興奮が冷めやらない中、今度はこの日に宿泊予定の紋別に向かいました。雪を被ったサロマ湖を右に見ながらの所要2時間の旅、昼食は名物の[ホタテバーガー]です。
紋別に到着すると、迎えてくれたのが巨大なカニの爪でした。圧倒的な存在感です(笑)
残念ながら今回は、有名な[観光砕氷船ガリンコ号]に乗って流氷を観ることはできませんでした。紋別は流氷が接岸する時期が網走や知床よりも早いため、3月にはなかなか観るのが厳しいようです。
ただ、その代わりに流氷について楽しく学ぶことができる[北海道立オホーツク流氷科学センター]を訪れ、流氷とは何なのかを学びました。オホーツクの四季を半球型スクリーンに投影して見せてくれるドームシアターは迫力満点でした。マイナス20度の厳寒体験室では、本物の流氷が展示されています。濡れタオルを振って凍らせる体験も行なうことができます。水槽にはクリオネもいます。
夕食は、昭和の雰囲気が漂う[はまなす通り]の居酒屋[海鮮遊食Rin]で北海道の海鮮を満喫しました。ちなみに、冬のオホーツクでは流氷が沿岸を離れるまで漁ができず、地産の海鮮を食すには「海明け」を待たなければなりません。今回は水槽にいた日高産のカニを一匹、刺身・てんぷら・ボイルの3種類に調理していただき、美味しく賞味しました。昼に、あんなカニを見せられたらいただきたくなりますよね(笑)
【第3日】
まずは、[おこっぺアイス]を求めて、紋別の隣町の興部町に立ち寄りました。朝搾りの生乳で添加物なしに作ったアイスであり、本当にめちゃくちゃ濃い味です。
以前、たまたま興部町を通りかかった時に何も知らずに食べて本当に感動しました。自称アイス評論家の私ですが(笑)、アイスそのものの美味しさという点で、こんなに美味しいアイスはないと思います。JAが販売しているので通販で手に入れることもできます。
さて、興部町を後に再び網走に戻りました。流氷は緩やかに沖に移動したので、この日は網走観光をしました。まずは定番の[網走監獄]です。
そこには、ロシアから国を守るにあたってのロジスティックに必要な道路開削工事の重労働で囚人の6人に1人が亡くなったという過酷な現実が紹介されていました。近代の歴史の現実を確認する上で素晴らしい経験となりました。昼食は食堂で[監獄食]です。
また、監獄近くの丘の上にある[オホーツク流氷館]では、流氷に関わる展示や体験ができ、展望テラスからは網走の街とオホーツク海、そして網走湖という360度の大パノラマを一望できました。
さらに、近くの[北海道立北方民族博物館]では、世界各国の北方民族について深く学ぶことができました。大阪万博記念公園にある[国立民族学博物館]の北方版のような興味深い展示でした。
最後に有名なジェラート店[Rimo]で3食アイスをいただきました。アイスで始まってアイスで終わる、この日の旅も氷三昧でした。
このように、流氷の旅においては、流氷を観ることを最優先にして、流氷が観られない日には別の観光地を訪れるという作戦がよろしいかと思います。夕食はJR網走駅名物の[かにめし]です。
【第4日】
網走の流氷がさらに沖に後退したこの日、知床半島西岸のウトロに移動(所要時間は車で1時間半ほど)しました。まずは、知床八景に指定されている[オシンコシンの滝]という溶岩台地から落下する名滝に立ち寄った後、知床世界遺産エリアの前線基地といえる[知床世界遺産センター]に訪れました。
世界遺産センターでは、まず知床の手つかずの自然を迫力の大スクリーンと5.1ch音響で紹介してくれるドキュメンタリー映画『知床の冒険』を鑑賞してから、徒歩で約20分の距離にある[フレペの滝]という知床八景に指定されたサイトに向かいました。
途中、エゾシカに遭遇したりして到着したのは海に面した断崖絶壁!
まさに2時間サスペンスのラストシーンを彷彿させる絶景です。
溶岩台地に集水された地下水が水平亀裂から湧出する滝の水が凍り切って氷柱になっています。波蝕によって浸食された入り江には、さっきまで遠くに見えていた流氷が迫ります。まさに自然の容赦ない厳しさを映し出した究極にスリリングな風景です。
この日の宿泊は、ウトロの中心にあるオールインクルーシヴの宿[北こぶし]です。
欲を隠さずにチェックインタイムにチェックイン(笑)、ちょっぴり贅沢なホテルライフを満喫しました。特に、凍えるような流氷を目前に観ながら入れる温泉とサウナ、そして十分に体を温めた後に涼しさを十二分に味わえる屋上気浴スペース(冬はマイナス10度の世界)は、ここでしか味わえない素晴らしいサービスでした。
【第5日】
この日、再び流氷がやってきました。午前中は、服の上からごわごわのウェットスーツを着てウトロの海岸に接岸している流氷の上を歩くアクティヴィティ「流氷ウォーク」に挑戦しました。
このアクティヴィティの最大の醍醐味は流氷から落ちて海の中に入ることです。これは、ディズニーランドのスプラッシュマウンテンでびしょ濡れになって喜ぶのとよく似た感覚です(笑)。ちなみにウェットスーツを着て入れば全然寒くありません。やはり流氷は、眺めるだけでなく、実際に触れてみることが重要です。
午後は、ガイドさんの指導の下、スノーシューを履いて世界遺産エリアの原生林を散策するアクティヴィティに参加し、冬の知床の大自然を満喫しました。途中、エゾシカやキタキツネにも遭遇しました。また、ガイドさんに、雪が積もった木を軽くゆすってみるよう勧められました。
一瞬何が起きたのかビックリしました。超サラサラの雪なので少しの揺れで瞬時に落下するんですね(笑)
そしてこのアクティヴィティの目的地はこちらの断崖絶壁です。
流氷が斜面を攻撃するというあまりにも過酷な厳冬の知床半島。遠くにはうっすらと知床岬が見えます。
さて、アクティヴィティが終わり、宿に向かう途中、やっと晴れ間が見えました。
この日に宿泊したのは[夕陽のあたる家]という部屋にも大浴場にもロビーにも夕陽のあたるという風景を愉しむホテルでした。
翌日は絶好の流氷日和になりそうです。夕食はセイコーマートの[温玉豚丼]です。これもめちゃくちゃ美味しいんですよね〜
【第6日】
朝起きると青天でした。部屋の窓には真っ白な流氷の大氷原が光っていました。
こちらは道路から見た流氷です。本当に音一つない静寂の中で、氷平線まで続く流氷の光景は、気が遠くなるほどの大パノラマです!
この日は、別海町の野付半島までエクスカーションして、知床半島東岸の羅臼を南側から眺めました。なんと、流氷は知床岬を通過して野付半島までやってきていました。知床連山がそびえる美しい厳寒の知床半島、そしてその横には遥か国後がハッキリと見えます。
しばし光景と散策を愉しんだ後、サケとホタテの本場として知られる標津町の[郷土料理武田]で正真正銘の逸品をいただきました。
その後、[標津町北方領土館]と[標津サーモン科学館]を見学しました。科学館では、サケとマスの違いについて受付の方にお聞きしたところ、学芸員の方をお呼びいただき、詳しくご教示いただくという幸運に授かりました。結論のみ言えば、サケとマスを区分する生物学的な統一的な基準はないとのことです(笑)。
この日は網走に戻り、オホーツクでの最後の宿泊をしました。夕食は炉端焼き[五十集屋]で海の幸を満喫しました。
【第7日】
流氷は再び沖に移動していきました(網走・能取岬)。
空港に行く途中、少し時間があったので、凍りついた網走湖で1時間ほどワカサギ釣りにチャレンジしました。ワカサギを2尾釣ったのはそこそこの釣果だったのですが、なぜか最後にカレイが1尾釣れて周りの人たちから大絶賛されました。何も考えずにただ穴に釣り糸を垂らしただけなんですけどね(笑)
女満別空港では、幸運にも超人気店の[奥芝商店]のスープカレーを全く並ぶことなくいただくに至りました。札幌市内よりも明らかにハードルが低いと思います。これで、今回のオホーツクの旅は終了です。
流氷を高確率で観るためには
今回の流氷の旅、本当にツいていたものと考えられます。3月に流氷を観れたのも、たまたま寒波がやってきたことによるものであり、単なる幸運でした[気象庁・オホーツク海の海氷分布]。
温暖化が進むなか、やはり流氷を観る確率を高めるなら、2月20日からの一週間を狙うのがよろしいかと思います。知床で流氷を定点観測されている[流氷ナビ]さんの画像がすべてを物語っています。3月の流氷は気まぐれです。
現地で流氷予測に役に立つのは、信頼性抜群の[気象庁の海氷予想図]と流氷ナビさんが提供していただいているような現地情報です。根拠ある情報を常に収集しながら、流氷がある場所を探して機動的に移動するのがすべてかと思います。
流氷は自然現象なので、確実に観れるわけではありませんが、やはり氷平線まで続くスペクタクルな光景を目にした時の魂を揺さぶるような感動は格別なものです。絶対に観る価値があると思います。気になるのは、オホーツクの気温も年々温暖化しており、将来はさらにハードルが高い光景になっていくものと予測されます。
ただし、ここ数年であれば、2月20日あたりから網走〜知床エリアに4〜5日滞在すれば、流氷を観れる確率はぼちぼち高いものと推察されます。チャレンジされる皆様のご幸運を強くお祈りする次第です。