ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)は2日、同国野党第1党「ドイツのための選択肢」(AfD)を右翼過激派に分類した。BfVによると、同党が自由民主主義の基本秩序に反する活動を行っているとの疑惑が確認されたという。それに対し、AfDは同日、BfVの評価は根拠のないものだとして法的措置を発表した。一方、BfVの評価を受け、AfDの禁止を求める声が高まっている。
独連邦憲法擁護庁、BfV公式サイトから
ドイツでは旧東独の3州、テューリンゲン州、ザクセン州、ザクセン=アンハルト州の州憲法擁護庁は既に州AfD州を右翼過激派組織に分類して監視対象としてきたが、連邦憲法擁護庁は今回、ドイツ全土のAfDを危険団体と認定して、監視対象とすることになる。ちなみに、ミュンスター高等行政裁判所は、2024年5月、連邦憲法擁護庁がAfDを「右翼過激派の疑いのある事例」に分類したのは正当であるとの判決を下している。BfVは今後、疑いのある事件として観察する場合、諜報手段の使用を認めることになる。
AfDの思想的指導者、テューリンゲン州代表のヘッケ氏は、ホロコーストやナチス時代の罪を軽視または否定する歴史修正主義者であり、極右思想の中核にある「民族的純粋性」や「国家主義」に通じる思想の持主だ。若者の間でAfDの支持者が増えている。
AfDは直ちに法的措置を発表した。ワイデル、クルパラ共同党首は「BfVの決定はドイツの民主主義への深刻な打撃だ。民主主義を危険にさらすこうした中傷に対して法的に訴える」と述べた。
AfD副議長のシュテファン・ブランドナー氏はSPDによる政治的影響力を示唆し、「連邦憲法擁護庁による決定は全くのナンセンスだ、法と秩序とは関係はなく、純粋に政治的な決定だ」と主張した。
それに対し、ファエザー内相は憲法擁護庁の独立性を強調、「新たな報告書には政治的な影響はなかった。連邦庁には過激主義と闘い、民主主義を守るという明確な法的権限がある」と強調する一方、「AfDは自由民主主義の基本秩序に反する行動を明白に展開している。AfDは、特定の民族集団を差別し、移民出身者を二級ドイツ人として扱う民族概念を主張している。これは、基本法第一条で保障されている人間の尊厳に明らかに反している。彼らの民族主義的な態度は、特に移民やイスラム教徒に対する人種差別的な発言に反映されている」と説明した。
世論調査研究所Forsaが4月15日から17日の間、1502人に支持政党を聞いた。その結果、AfDが支持率26%で、CDU/CSU(25%)を抜いて初めてトップに躍り出ている。2月23日に実施された連邦議会選では得票率は20.8%だったから5.2%増加したことになる。
BfVの評価を受け、AfDの政党禁止の声が高まってくることが予想される。政党の禁止は連邦議会、連邦参議院、または連邦政府が連邦憲法裁判所に要請することができる。SPDのセルピル・ミディヤトリ連邦副議長は「私にとっては明白だ。禁止措置は必ず講じなければならない」と述べている。
ドイツでは1956年、ドイツ共産党(KPD)を禁止して以来、政党が禁止されたケースはない。ドイツでは2017年、連邦憲法裁判所は極右政党NDP(国民民主党)の禁止要請について、「NDPが違憲性のある政党である点は疑いないが、国や社会に影響を与えるほどの勢力はない」として却下した。
ドイツの政治学者ヘルフリート・ミュンクラー氏はオーストリア国営放送のニュース番組のインタビューの中で、「NDPは勢力が小さすぎるから禁止されなかったとすれば、AfDは大きすぎるから禁止できないと言えるかもしれない」と答えていた。同時に、「民主主義は現在、世界的に守勢に立たされている。私たちは現在、台頭しつつある独裁政権と民主主義との間の世界的な競争の中にいる」と語った。
ドイツではCDU/CSUやSPDはAfDに対してファイアウォール(防火壁)を建て警戒してきたが、ドイツの場合、独裁者ヒトラーが武力行使(革命)で政権を掌握したのではなく、民主的プロセスを経てナチス政権を発足させ、ユダヤ民族の虐殺などの戦争犯罪への道を歩んでいった、という苦い体験がある。ドイツ国民には民主主義に懐疑的になる歴史的な事情がある。
AfDアリス・ワイデル党首インスタグラムより (2)
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。