トランプ氏は神様か、ペテン師か、はたまたチャレンジャーか、単なる夢追い人なのか、私の頭の中ではさまざまなケースが思い浮かびます。もちろん、今、確固たる答えには行きついていません。ただはっきりしていることは氏は非常に行動派であり、失敗を恐れず、その通りになるかどうかは別として有言実行するタイプです。
日本のコメンテーターで大見得を切る方を時々テレビやネットでお見掛けします。あの自信はどこから来るのだろうと思うのですが、コメンテーターは言うだけで責任はほとんどないわけです。自分が思っていたことを述べたまでだ、と。トランプ氏は著名コメンテーター並みの発言をしながらも大統領として実行してしまうところに「怖いもの見たさ」があり、あたかもローラーコースターに乗っているスリルを味合うような感じすらあるのです。
トランプ大統領 ホワイトハウスXより
関税問題で株式市場は大いに揺さぶられました。株価は崩落したのち、トランプ氏の交渉という名の妥協で市場は「言うほどではないぞ」と足元を見始めています。では市場は平静を取り戻したのでしょうか?
私は「しわ」ができているとみています。トランプ氏が関税を俎上に載せるのは氏が大統領に当選した時からわかっていました。日経ビジネスによるとソースネクスト社は同社の売れ線商品「ポケトーク」のアメリカ向け製品の1年分の在庫を関税問題が表面化する前に送ったとあります。1年分?やり過ぎじゃないかと思います。経理的にどういう処理をされているのかわかりませんが、当然そこには皺寄せが来るわけです。なぜならアメリカ向けの商品は当面製造しなくてよいわけで、製造業者としては猛烈に忙しかったと思ったらばったり発注が止まるわけです。
同じような話はどの業界にもあります。それこそ自動車から化粧品やおもちゃまでなんでもそうなのです。私どもは日本からカナダ向けの輸出商品を扱っているので船便も頻繁に出るのですが、今年前半の船のスケジュールは酷かったです。私どもが使う船会社のバンクーバー港に来る船はシアトル タコマ港経由なのですが、すべての船の予定がコロナ期並みに狂ってしまっていました。3週間遅れぐらいだったでしょうか?その頃、同業の中国系カナダ人の方と話をしたときも中国から北米線が大停滞したと言っていました。どの業者も関税が実施される前に必死で商品をアメリカに送り付けたのです。
米中関税がひと段落し、3か月の交渉期間に入っています。ところがアメリカも中国も最終的な判断がどうなるかわからないから今のうちに第2弾で商品を輸入できるだけ受け入れる動きが出ているようです。するとどうなるか、といえばただでさえ腹いっぱい在庫を抱えているのに8月ぐらいまでに更に商品が来て倉庫からあふれるほどになる可能性が出てきています。製造するアジアの工場は当然、閑散と繁忙が激しく移り変わります。
いくら大食漢のアメリカとはいえ、そんなにたくさんの商品を食い切れるのか、という疑問もあります。アメリカ人の懐はそこまで温かいのか、と。あるいは消費者による需要の先食いが生じている可能性もあります。
パウエル氏はこの点を非常に気にしているのです。JPモルガンのダイモン会長も「アメリカのリセッションの可能性はまだ残る」とコメントしています。
経済というのは割とセンシティブなもので平時にスムーズに流れていれば様々な経済予測が経験則から占えます。ところが今は下水管がところどころ詰まっていてそれが一気に流れたり、また詰まったりの繰り返しになっているのです。この不均衡な需要と供給は市場のボラティリティが上がりやすくなり、読めない事態になりやすくなります。
賢い消費者は値上がりする前に買いだめするかもしれません。しかし、金銭的に余力がなければ買いだめすらできません。またすべての消費者が賢く、保守的な行動をするわけでもないのです。とすれば消費行動はあくまでもその時々の雇用情勢と賃金の動き、社会の動静と雰囲気次第ともいえます。また勤労所得による消費ばかりではなく、投資収入が人々のメンタルに大きく影響するので不動産市況や株式市場がポジティブに展開するのが必須条件とも言えます。
トランプ氏は原油は高すぎる、だからアメリカで掘って掘って掘りまくるのだ、と言っています。トランプ氏のそこに勘違いがあるように見えます。株価は健全なインフレになれば高くなりやすいという大原則があります。特に原油と銅などの資源が値上がりすることで株価も上昇し、景気の実感もわいてくるのです。原油の価格は下げてはダメなのです。70㌦台の心地よい水準にすべきなのです。それを大幅に下回る今は逆に景気が下押しするリスクが当然出てきます。アメリカの中でリセッションはもうない、とするレポートも散見できるのですが、ダイモン会長がここで戒めをしたのは「この経済はそんな簡単なものじゃない」ということを示唆しているのでしょう。
私は今年いっぱいは落ち着きがない状態が続くと思います。また産業界をリードするヒット作品が出ていないので誰が経済を引っ張るか、という点において私は若干懸念を持っています。世界経済はまだまだ手探りの状態ではないかと思います。
お前はこの話題を振っておいてアメリカのムーディーズの格下げはスルーするのか、とおっしゃる方もいるかもしれません。この点はベッセント財務長官がコメントしたようにそもそもの原因はバイデン政権が作り出した部分もあるし、3大格付け会社の他の2社は2011年8月(S&Pグローバルレーティング)と2023年8月(フィッチ)とはるか昔に引き下げており、ムーディーズも23年11月に見通しをネガティブに引き下げていました。よって驚きはないし、昨今の関税プランが思うようにいかず、財政負担が重くなることを見越して引き下げたぐらいのものです。
そんなことよりもう少し先の点について専門家や機関投資家が明白なポリシーを持てない点がもっと混とんとさせているように感じます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月19日の記事より転載させていただきました。