「報われないから会社で頑張るだけ損」は本当か?

黒坂岳央です。

SNSを見渡すと、「働いても給料は変わらない」「頑張った分だけ損をする」といった投稿が散見される。

こうした不満が蓄積すれば、「どうせ頑張っても意味がない」という“燃え尽き症候群”が蔓延しても不思議ではない。

しかし筆者はこの投稿や風潮を、「間違い」と考える。それどころか、真摯に業務へ向き合うビジネスパーソンや、健全な雇用を創出する企業にとって看過できない害悪とすら言える。

その根拠のひとつは、多くの人が気づかないまま働いている「給与の構造的な前払い性」にある。

Fiers/iStock

サラリーマンは“報酬の先取り”である

企業に入社したその日から、サラリーマンは時給換算で給与を得ている。たとえ最初の数週間が研修やOJTであっても、売上に直結しない時間であっても、会社は「人材への先行投資」として報酬を支払っている。

この構造を理解しないまま働き続けると、

「何もしなくても給料が出る」
「座っていればお金がもらえる」

といった誤解を抱くことになる。かつて筆者が派遣社員として働いていた際、この感覚に陥ったことがある。

スキルアップ研修の時は「ラッキー」と思っていたし、繁忙期に出社すると「損をした」と思っていた。だが今考えるとそれは極めて危うい認識であった。

冷静に考えれば当たり前だが、給与の原資はワーカーによる粗利から来ている。だが給与が前払いされる制度からくるタイムラグが、本質的な感覚のズレを生み出している。

仕事は価値の先出しが基本

上述した通り、サラリーマンは給与が確保されているので、「頑張っても頑張らなくても給料は同じ。なら楽して給料をもらえるほうが得」という感覚に陥る人が出てくる。

だが本来、雇用形態を問わず、市場で通用する普遍的ルールは「ギブ・ファースト」、すなわち価値の先出しである。

自らの努力が正当に評価される環境に身を置くか、それとも転職市場で換金可能なスキルを磨くか。いずれにしても、「給与の先払い」に甘えるより、「リターンの後取り」を目指す方が合理的である。

労働時間ではなく労働生産性を高めよ

努力が報われないと感じる背景には、大きく2つの要因がある。

1つ目は努力ではなく、徒労に終わっているケースだ。労働生産性の低さを長時間労働でカバーしたり、何年も同じポジション、同じスキル、同じ成果物を出し続けるという努力であればどこの会社でも努力として評価することは難しい。労働市場価値は変わらないからだ。

会社が期待する努力とは、長時間労働ではなく労働生産性の向上だ。たとえばデスクワーカーがVBAを勉強し、マクロ開発を行うことで業務プロセスを自動化、高速化することで同じ結果を短時間でミスなく実現する、というものである。

仮に月次集計の処理時間を30分から5分に短縮すれば、年間で50時間以上の余力が生まれる。月給30万円とすれば、およそ7.5万円分の付加価値を生み出していることになる。

デスクワークや頭脳労働に従事する人にとっては、こうした定量的な成果が見える化することで初めて評価対象になると考えるべきだろう。

成果は数値化しPRが前提

もう1つはPRだ。上司や経営者といっても一般職と職位が違うだけでしょせん同じ人間に過ぎない。彼らは自分の仕事を頑張っており、すべての部下の一挙手一投足まで追いきれないことも多いだろう。

部下が黙っているだけでは上司に頑張りは伝わりにくい。そこで人事評価面接時などでは、定量的に生産性向上の結果をプレゼンする必要がある。

筆者は米国系外資にいたのでよく分かるが、人事評価シーズンになるとどこの部署でもいかに自分が結果を出したか?ということのPR合戦が始まる。同じ部署内の同僚はライバルであり、このプレゼン力で差がついてしまう要素は正直、かなり大きい。

控えめな日本人にはあまり受け入れがたい文化の違いだが、仕事場ではモードを切り替えて積極PRが必要だと考えるべきだ。

会社の人間関係は長年連れ添った夫婦でないのだから、黙っているだけで頑張りがすべて認められるのは厳しい言い方をすると「甘え」である。

「頑張った」という抽象的な感覚を、自分の中だけで閉じて持っているだけではエスパーではない相手には何も伝わらない。客観的に理解できる形でPRするところまでが仕事の実力であり、ビジネスなのだ。

「頑張っても報われないからできるだけサボろう」という思考に陥ると、結局長年働いても年齢相応のスキルやビジネス思考が育たないまま年を取る。そうなると30代、40代で「プライドや会社への期待値ばかり高く、面倒で仕事ができない中年」になってしまう。そうなると損をするのは自分自身だ。

会社は結果を出す場であり、その実績やスキル、経験は転職先などに持ち越せるしむしろ、企業存続年数が右肩下がりの現代はそうするべきだ。

 

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