世界史上最大の「国債バブル」は終わった(アーカイブ記事)

日経平均は13日に4万3274円と史上最高値を更新した。1989年のバブルを上回る水準だが、株式市場には36年前の熱気はない。国債市場に不気味な動きがあるからだ。

国債は12日に10年物が2年ぶりの未達に終わったあと、13日の5年物国債入札も5年ぶりの弱い結果だった。金利の先高感が強く、利回りが1%を超えても買い手がつかなかった。

世界史上最大の国債バブル

これを価格(10年物国債先物)で見ると、2020年からほぼ一貫して下がっており、今の水準は20年前のサブプライム危機以来の水準である。日本国債の残高は1129兆円とGDPの約2倍で、これは日銀の黒田総裁のつくった世界史上最大の国債バブルだった。

図1 10年物国債の先物価格(Investing.com)

図1のように国債価格が下がり始めたのは2020年だが、大きく下がったのは黒田総裁が退任し、YCC(長短金利操作)が終わった2023年以降である。

資産価格にバブルが発生することは珍しくない。たとえば日銀券は合理的バブルである。その紙としての価値は20円ぐらいだが、すべての人がそれに1万円の価値があると思うと、1万円の商品を買うことができる。

国債バブルも、櫻川昌哉氏の指摘したように合理的バブルであり、それが維持できるなら悪いことではない。日本の国債金利が異常に低かったのは、貯蓄率が高く安全資産の需要が多いのに対して、国内資産が乏しく、金融村の運用能力が低かったためだ。

このため国債がつねに需要超過で利回りが低く、外資はほとんど買わなかった(図2)。これが「国債は9割が国内投資家が保有しているので安全だ」という錯覚を生み、バブルがさらに大きくなった。財務省が国債を無理やり買わせたのではなく、安全で有利な資産として国債は売れたのだ。


図2 世界各国の長期金利(櫻川昌哉氏)

しかし黒田総裁が退任して植田総裁が量的引き締め(QT)を始めると金利が正常化し、海外のヘッジファンドが日本国債を買い始めた。超長期債の買い手の半分以上が海外ファンドである。

ファンドは短期売買なので、政府や日銀の意向とは関係なく、高いと思ったら空売りし、下がったところで買い戻す。それが30年、40年物の超長期債から5年物、10年物に波及してきた。

ソフトランディングできるのか

バブルはいつか終わる。問題はそれがソフトランディングするか、崩壊して大暴落するかだ。1989年の大納会では、それが最高値だと思う人はいなかったが、今回は市場参加者は慎重だ。PER(株価収益率)でみても、今は36年前の1/3以下である。

統合政府のバランスシートで見ると、政府の純資産は696兆円のマイナス(債務超過)であり、この部分が国債バブルである。これ自体は先進国では普通に見られることで、この部分は「将来の徴税権」といわれるが、実際には700兆円も増税することは不可能なので、これは心理的な政府の信認である。

桜内文城氏

この信認が守られることが政府債務の維持される必要十分条件であり、債務のGDP比とか自国通貨建てかどうかは大した問題ではない。

ギリシャが2012年に事実上デフォルトしたときの政府債務はGDPの172%で、当時の日本より低かった。自国通貨建ての国債がデフォルトした例も、ロシアやアルゼンチンやトルコなど、いくらでもある。

長期金利が上がると、まず起こるのは政府の利払い費の増加である。2025年度予算の利払い費は10.6兆円だが、これは平均金利を0.9%として計算している。政府債務は1300兆円なので、金利が1%上がると利払いは最終的に13兆円増える。これが今すでに1.5%まで上がっているので、今年度の利払い費は20兆円を超えるだろう。

長期金利=自然利子率+予想インフレ率+長期プレミアム

だが、日銀は中立金利(自然利子率+予想インフレ率)を1~2.5%としているので、長期金利は少なくとも2.5%まで上がる余地がある。平均金利が2.5%になると利払い費は30兆円になり、消費税収(25兆円)は吹っ飛んでしまう。

国債バブルが崩壊すると何が起こるか

日本政府がデフォルトすることはありえないが、通貨を無限に発行したらインフレが起こる。この財政インフレは、日銀がコントロールできない。政策金利を上げると元利合計の利払いが増えて政府債務が増え、それによって金利がさらに上がる…というループに入り、ハイパーインフレが起こるというのがシムズのシミュレーションである。

ハイパーインフレのシミュレーション(Sims & De Negro)

そこまで極端なケースを想定しなくても、金利が1%上がっただけで、金融機関の保有国債には評価損が発生する。今すでに日銀の保有国債576兆円には14兆円の評価損が出ているが、ここからさらに金利が1%上がると評価損は27兆円になる。だが日銀の保有するETFの評価益は25兆円あり、日銀の自己資本は12兆円なので財務は心配ない。

問題は民間の金融機関である。メガバンクは長期国債をあまり保有していないが、生保は超長期債を大量に保有しているので、40年債の価格はすでに額面の半分以下になって大きな評価損が発生している。これは長期保有ということにすれば決算で減損処理しなくてもいいが、解約が増えると何が起こるかわからない。

最大のリスクは、長期国債を大量に保有している地域金融機関(地銀・第二地銀・信金・信組)である。不良債権処理のときも、1994年に東京の二信組の破綻がきっかけで、関西の信組・信金・第二地銀が連鎖的に破綻した。このとき最大のリスクは取り付け(特に大口定期の解約)で、その確率はSNSの発達した今はるかに大きくなっている。

日銀は「出口戦略」を明示して債務整理すべきだ

要するに国債バブルが崩壊すると財政が破綻するのではなく、金融危機で経済が破綻するのだ。1990年代の不良債権を清算して失われた資産は約100兆円だったが、資産は民間の不動産だった。1300兆円の国債が不良資産になると、国家の中枢が麻痺してしまう。

これから何が起こるかは予断を許さないが、明らかなことは日本の国債バブルは終わったということだ。日銀の仕事は無意味なインフレ目標を達成することではなく、これをいかにソフトランディングさせるかである。

1990年代の経験からいうと、過剰債務の処理の鉄則は迅速に債権債務を整理する一方、それによる金融機関の資本増強で金融危機を防ぐことだ。今回は債務者(政府)が破綻する心配はないので、債権者(金融機関)の保有国債を経済にショックを与えずに減らす出口戦略がむずかしい問題である。

植田総裁が利上げに慎重なのも金融村の経営不安を心配しているためかもしれないが、これは逆効果である。過剰債務を先送りすると危機は大きくなるというのが1990年代の教訓である。23日にはアメリカのベッセント財務長官が日銀の植田総裁に対して事実上の利上げ要請をしたと報じられた。

日銀が長期的な出口戦略を策定し、金利を正常化して債務整理を進めるとともに、財務省は金融機関への資本注入などの体制を整備する必要がある。1990年代には日銀が債務整理の枠組をつくったが、財務省が消極的で処理が遅れた。

そして言うまでもないことだが、これ以上、政府債務を増やしてはいけない。野党の要求する消費減税は論外だが、与党の現金給付も財政不安を起こしてバブル崩壊のきっかけになる可能性がある。バブルがいったん崩壊すると止まらず、その後遺症は10年以上続くというのも1990年代の教訓である。