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「もう、この子と一緒に笑える日は来ないのかもしれない」
病院のベッドで眠る娘の小さな手を握りながら、大澤裕子さんは何度もこの思いと向き合いました。妊娠中に長女の重度心疾患を告知された大澤さん。出産後も入退院を繰り返す闘病生活が続きました。その経験から生まれたのが本書です。
『難病の子のために親ができること』(大澤 裕子 著、青春出版社)
[本書の評価]★★★★★(90点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
「居場所」が子どもと家族を支える
大澤さんが最も伝えたかったのは、難病の子どもとその家族に「居場所」を作ることの大切さです。
重い病気を告知された親は深い悲しみに襲われます。「普通」の子育てができないという喪失感から、うつ状態に陥ることも珍しくありません。理想は平常心で子どもに接することですが、それは容易なことではないのです。
しかし、「今できること」が明確になれば、不安は確実に軽減されます。本書はその「親としてできること」を示す羅針盤となります。
日本では約20万人の子どもたちが難病と診断されています。2021年に医療的ケア児支援法が施行されましたが、特に地方では専門知識を持つ医師や支援施設が不足しています。
「制度は整いつつありますが、最も必要なのは『心の支え』です」と大澤さん。難病の子を育てる親の約7割が社会的孤立感を抱えています。この孤立を解消することが、子どもの治療にも良い影響をもたらすのです。
20年先を見据えた子育ての地図
本書の最大の特徴は、長期的な視点で親の役割を提示していること。闘病期から社会に出るまで、20年にわたる道のりを時系列で解説しています。
小学校入学時には「クラスメイトや教師にどう伝えるか」、思春期には「自己肯定感を育む方法」、就労期には「社会資源の活用法」など、各ステージに応じた具体的なアドバイスが満載です。
また、著者自身の経験と、多くの家族を支援してきた実践知が融合している点も高く評価できます。「難病の母親としての葛藤」と「支援者としての客観的視点」、この二つから語られる言葉には説得力があります。
子どもの難病を告知されると、多くの親は「もう未来はない」と絶望します。しかし、子どもと共に楽しめる「居場所」を見つけることの大切さ、そして同じ経験を持つ仲間との出会いがもたらす希望—本書を読めばそれらが見えてきます。
情報は不安を減らし、安心を与えてくれます。親自身が精神的に健康であることが、子どもの回復を支える土台となります。難病と向き合う家族にとって、この本は単なる情報源ではなく、「あなたは一人じゃない」というメッセージが込められた温かな伴走者です。
大澤さんの「一歩踏み出す勇気さえあれば、必ず誰かがあなたの手を取ってくれる」という言葉が、今苦しんでいる誰かの光となりますように。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)