財産をどう処理するか?:ゲイツ氏とバフェット氏に学ぶ

今や大手上場会社の役員なら年収1億円クラスが驚かれない時代となりいわゆる資産家は今後、急速に増えそうです。またこの10年、都心部や主要都市の利便性の良い不動産は数割から2倍程度上昇しています。不動産持ちの方にとっても悪くない話でしょう。ただし、一軒しかお持ちではない方はいくら不動産価格が上がっても固定資産税が上がるだけ、と言われそうですが。

さて、財産をどう処理するか、つまりイグジットプランを考えてみましょう。日本の書店に行けば相続税対策の書籍はたくさん並んでいます。そのほぼすべてが税金対策であり、いかに節税して財産を子供たちに引き継ぐがという指南書になっています。

では質問です。あなたはなぜそこまでして子供に相続させたいのでしょうか?

子供がお金に困らない様になればいいじゃないか、お前何言ってんの?と言われるでしょう。でも子供がお金に困らないようにすることが本当に意味あることなのか、これは一歩下がって考えてもよいでしょう。

私は北米で様々なことを学んできたわけですが、その中の一つに親は親、子は子という考え方があります。親の金は親が使うものであり、子供に分け与えるという発想は必ずしも優先しないというものです。余ったらやるけれど特別配慮して子供に分配するという発想はないとは言いませんが、日本のような強い発想はないと思います。

歳を取って自宅に住めなくなれば施設に入ります。日本では家を売って施設に入るという発想は少なく、空き家放置にしているケースも多いと思いますが、こちらは基本的には家を売却して施設に入ります。こちらの不動産価値が中古でも日本に比べて相当高く、よい金額で売買されることから住まないなら売る、また空き家にすると空き家税がかかるから売らざるを得ないのです。

施設に何年お世話になるかはわかりませんが、「この住宅売却代金で10年ぐらいは大丈夫かな」と言いながら施設に入居される方もいらっしゃるわけです。つまり基本は使い切りの発想です。

さて、最近ビル ゲイツ氏が個人資産の99%を個人財団に寄贈すると発表しました。金持ちのまま死んだと言われたくないというわけです。ゲイツ氏は69歳ですが、今から20年先の2045年にそのゲイツ財団を解散すると発表しています。報道ではその基金約29兆円を20年かけてばら撒くというわけです。

ダイエットコークを飲みながらビル・ゲイツとカードゲームに興じるバフェット(2018年)

ウォレン バフェット氏が今年末で経営責任者から退くと発表しましたが、バフェット氏は自分の子供が管理する財団に死後、その資産が移り、10-15年で財団の資産を使うよう指示しています。

両名に共通しているのは単に資産を財団に移すだけではなく、その資産をさほど長くない期間で使えと指示しているのです。これは割と新しい傾向ではないかと思います。

財団の運営は通常、基金となる資金を運用し、その運用益の一部を慈善事業に寄贈するというものです。北米にどのぐらい財団があるかといえばアメリカは約105000,カナダに約11000あります。多くはPrivate Foundationと称するもので個人が設立し、一定のルールの下で運用するようになっています。カナダにはいわゆるminimum quota (最低費消割り当て)もあり、目安として財団収入の5%程度は毎年寄贈する必要があります。(なぜ費消割り当てが5%程度と小さいかといえば財団は財団の基金規模を大きくする必要があるからです。)

つまり財団は基金の金額を大きくすることで将来的に安定的な寄贈ができるような仕組みとなっているのです。それにもかかわらず、ゲイツ氏やバフェット氏は10-20年程度で基金の部分も使え、というのです。これはインパクトがあります。財団の場合はその目的と運営方針に基づきその寄贈先が自分で選べます。これは故人の遺志を明白に反映できるもので素晴らしい仕組みなのです。

財産をどう処理するかという点において、私はゲイツ氏やバフェット氏の思想である死後も長期にわたりその資産の有効活用を維持する取り組みが素晴らしいと思うのです。

日本国内で遺産相続で揉める話は嫌というほどあります。それこそ、あそこは遺産で大型テレビやら車を買ったのになぜうちは買えないといった低俗な話がいまだあるのが日本の現状かもしれません。

遺産を残す側もあいまいな遺書を残す時代ではないと思うのです。非常に明白な形にすべきです。子供や親せきに金をばら撒くだけではそのお金がどう使われるか管理できず、社会的に有効な使い方はなかなかされないでしょう。家族で美食三昧、旅行三昧で散財して終わるケースも多いのではないでしょうか。

時折社会欄のニュースでまとまったお金を役所などに届けて〇〇に使ってください、という美談が報じられます。あれが美談にしかならないのは日本でお金を寄贈し、それをうまく活用する社会基盤が整っていないのです。

ここを整備し、個人が個人の意思でお金をどう処理するか決められるような仕組み作りは不可欠です。冒頭申し上げたように使い切れないほどの資産を持つ人は今後、加速度的に増えてくると思います。それを単に家族だけに分配するという時代はもう終わりにすべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月25日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。