老害より厄介?コスパ至上主義という「若害」

黒坂岳央です。

「若者=貴重な労働力」というこれまでの常識が、徐々に揺らぎつつある。

「残業を頼んだら鬱の診断書を出してきた」
「間違いを指摘しただけで退職代行から連絡がきた」

SNSではこうした嘆きの声が日々流れてくる。今、企業はまるで腫れものに触るように若手社員を扱い、少しでも指導すれば「老害」と呼ばれることを恐れて沈黙する傾向すら出てきた。

「年を取ってダメになる老害があるなら、その逆の若害もあるのでは?」と少しずつ言い始める人も出て来た。

本稿では、この「若害」を年齢ではなく「行動特性」と捉え、背景にある時代要因の検証を試みたい。

※本稿で取り扱う「若害」という言葉は若年層を非難する意図は一切ない。あくまで組織や周囲に悪影響を及ぼす可能性のある行動様式を分析し、改善提案を目的で書かれた。

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4つに分類できる「若害」

「若害」とは、若さゆえに未熟な行動をとる個人を揶揄する言葉ではない。本稿で扱う若害とは、年齢にかかわらず以下のような行動特性を持つことで、組織や周囲に悪影響を与える存在を指す。

権利過敏型:残業拒否や、労基・診断書を盾にする。だが正当な権利主張も、説明と代替案がなければ建設的とは言えない。

礼儀軽視型:挨拶や報連相を「コスパ悪い」と省略し、チームの協調性を損なう。ビジネスチャットで絵文字だけの返信など、チームワーク前提の会社員で個人プレーをしてしまう。

個人優先型:チーム目標より「やりたいこと」や「推し活」を優先し、業務を後回し。上司は尻拭いをしてくれる便利な存在、というバイト先の社員のような感覚を持っている。

瞬間離職型:指摘を受けたり連休明けに退職代行を利用して即離脱。

これらは「個人の価値観」として見過ごされがちだが、業務への責任感や協調性と衝突する場面も多く、組織としては無視できない問題となっている。

若害を生む背景

このような若害行動を生み出す背景を探っていきたい。どのような事情があるのだろうか?

2025年のニッセイ基礎研究所のレポートでは、若年層の消費が「メリハリ型」に移行しているとされる。外食や旅行を極端に節約する一方、推し活や限定グッズには青天井のように出費する。この価値観は、「コスパが合わなければ働かない」「残業は非効率」といった職場行動にも繋がりやすい。

加えて、New York Postによれば、Z世代は年間平均49本もの金融アドバイスをSNSから得ているという。中でもTikTokなどの”FinTok”では「副業でFIRE」「仮想通貨で一発逆転」といった短期成功の事例がバズりやすい。

このようにアルゴリズム主導の情報環境では、地道な努力よりも目立つ成功事例が拡散されやすく、合理的に見えて実は“短期的な自己最適化”に偏った意思決定が常態化する。

ソーシャルフィルタリングされた情報は「大衆にウケが良い」という点でスコアリングされているにすぎず、自分自身の価値観や本音、人生の優先度などは一切無視されている。そのため、大衆向け最適解をトレースすることが効率が良いように見え、その実、自分の本音にアクセスがない「作られた需要喚起」に過ぎない。

結果として、「働く=自己実現の手段」ではなく、「働く=時間対効果が低い行為」として捉えられる風潮が一部で強まっているという仮説を立てることができるのではないだろうか。

「若年プレミアム」の終焉か?

少子化による人手不足は、企業側に「若者を甘やかす構造」を生んだ。初任給30万円といった好待遇、成果に関係なく与えられるインセンティブなどがその例だ。

人によっては「あまり根拠のない厚遇がかえって彼らを勘違いさせ、身勝手な行動になり得る」と考える人もいる。確かに長年働いたベテラン社員とあまり変わらないような給与を、入社時にもらえる道理は見出しづらいと考える人がいても不思議ではない。

しかし、世界は変わりつつある。OECDは「生成AIによって、職務の70%が影響を受ける地域も出る」と警告。また、経済同友会は2035年に外国人労働者が国内労働の1割を占めると試算している。

若年プレミアムの終焉は近い。企業が「扱いづらい若手」ではなく、「AIや外国人労働者」を選ぶ未来は、すでに現実味を帯びている。

「若さ」という錯覚資産

若さとは、決して“価値そのもの”ではない。企業にとって若者とは、将来的な価値創出を期待された“ベットの対象”という段階でしかない。パフォーマンスが上がらなければ、年齢に関係なく切り捨てられる時代になっている。昨今、黒字経営でもリストラを敢行する日本企業も取り上げられるようになった。

だが、若さという資産の“換金性”は確実に減価していく。そのまま年を取れば「権利ばかり主張し、仕事ができない中年」として市場に放り出されるだろう。こうなれば厳し言い方をすると引き取り手は誰もいなくなる。

一方でスキル・実績・協調性があれば、たとえ残業を拒否しても価値で評価される。周囲も納得し、組織もその人物を戦力として信頼する。今こそ「若さで許される時期」を「実力で信頼される時期」へ転換する意識が求められる。

若い内にやっておくべきこと

以上を踏まえると、若い時期は「自分本位にマイペースに振る舞う」よりも「若さという錯覚資産から価値を最大限引き出す」という行動こそがコスパがいいということになる。具体的には次のような取り組みが良いだろう。

1つ目はスキル×AI活用力だ。プロンプト設計、業務自動化、可視化スキルは、生成AI時代の必須素養だ。特に生成AIについては、新しいテクノロジーに及び腰な中高年より、20代前半独身で時間資源や体力豊富な若者こそが圧倒的に有利だろう。

2つ目にビジネスコミュニケーションである。報連相やフィードバックは「面倒な義務」ではなくビジネス界のルールに近い。

自社ではスルーされる無礼も、取引先に向けると損をするのは自分自身だ。若ければ少しくらいの非礼は許されやすい、その間に年を取ってから信用を失わないようなビジネスコミュニケーションを身に着けておくべきだろう。

若さゆえの未熟は許される時期もある。しかし、それが永続する保証はどこにもない。老害と若害の違いは、年齢ではなく、「柔軟か、硬直か」というだけだ。若さが武器である内にできるだけ価値を引き出す行動を積み重ねることこそが最適解だろう。

 

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