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この記事では、情報通信業の固定資本減耗について国際比較してみます。
1. 情報通信業の固定資本減耗
経済活動別の固定資本減耗について国際比較を試みます。
今回は、生産性の高い産業としても知られる情報通信業について注目してみます。
図1 経済活動別 労働者1人あたり固定資本減耗 日本
OECD Data Explorerより
図1が日本の労働者1人あたり固定資本減耗の推移です。
今回着目する情報通信業(ピンク)は、近年では製造業と同程度の比較的固定資本減耗の多い産業となります。
1990年代は電気・ガス・空調供給業、公務に次ぐ水準でしたが、2000年代からやや低下傾向が進んでいて、近年では鉱業や製造業に抜かれています。
情報通信業は、例えば通信ケーブル網や通信基地局などが欠かせない産業です。
また、近年ではAI技術を支えるデータセンターなども、この産業のインフラとして含まれるものと考えられます。
これらインフラも固定資産としてこの産業に計上されるはずですね。
その分固定資本減耗も比較的大きな産業となっていると推測されます。
2. 労働者1人あたりの推移
情報通信業の固定資本減耗について労働者1人あたりの水準(名目、為替レート換算値)の推移を見てみましょう。
図2 労働者1人あたり 固定資本減耗 情報通信業
OECD Data Explorerより
図2が主要先進国の情報通信業における、労働者1人あたり固定資本減耗の推移です。
日本は1990年代に非常に高い水準に達し、アメリカと相応する水準が継続していました。
近年ではドル換算でも減少傾向が続き、スペイン、ドイツ、韓国と同程度となっています。
一方で、アメリカは非常に高い水準となっていて、かつ大きく上昇傾向が続いてます。2022年、2023年では他の主要先進国の2倍程度の高水準です。
3. 労働者1人あたりの国際比較
最新の2022年の水準について国際比較してみましょう。
図3 労働者1人あたり固定資本減耗 情報通信業 2022年
OECD Data Explorerより
図3がOECD各国の2022年の国際比較です。
日本は25,930ルで、OECD30か国中13位、G7中4位です。
先進国の中では中程度の水準になるようです。
アメリカが非常に高い水準に達していますが、それよりもアイルランドが凄まじい状況ですね。
アイルランドは近年急激に経済の拡大する国です。
他国からの投資が大きく増加していますが、産業別に見ると情報通信業に投資が集中しているようにも見受けられますね。
4. 対国内総生産比の推移
続いて、各経済活動における国内総生産(Value added, gross)に対する比率でも比較してみましょう。
図4 固定資本減耗 対国内総生産比 情報通信業
OECD Data Explorerより
図4が情報通信業における固定資本減耗 対国内総生産比の推移です。
各国で概ね20~30%程度で推移しているようです。
他の産業と比べると、国内総生産に対する固定資本減耗の割合の大きな産業という特徴があるようです。
それだけインフラの維持費用が嵩みやすい産業でもあるという事ですね。
日本は他の主要先進国やOECDの平均値を上回る水準で推移していますが、近年ではスペインやイタリアに抜かれています。
5. 対国内総生産比の国際比較
最後に、対国内総生産比の国際比較をしてみましょう。
図5 固定資本減耗 対国内総生産比 情報通信業 2022年
OECD Data Explorerより
図5が2022年の固定資本減耗 対国内総生産比の国際比較です。
日本は28.7%でOECD30か国中9位、G7中2位となっていてOECDの平均値を超え、相対的に高い水準となっています。
アイルランドは金額で言えば圧倒的でしたが、対国内総生産比では日本とあまり変わりません。
それだけ、この産業の国内総生産も高い水準に達している事になりそうです。
この分野ではドイツ、イギリスが相対的に低い水準というのも特徴的ですね。
6. 情報通信業の固定資本減耗の特徴
今回は経済活動のうち情報通信業の固定資本減耗について着目してみました。
情報通信業では、通信ケーブルや通信基地局の他にも、データセンターなど今後の情報化社会の中で必要不可欠なインフラを活用した産業となります。
特に今後はAIの活用が増え、データセンターの重要性が増すと言われていますので、更なる投資が必要となってくるかもしれませんね。
日本の情報通信業は、労働者数は増えていますが、付加価値が停滞しています。
投資が付加価値の向上に結び付いていくのか、注目していきたい産業ですね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年5月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。