バチカンニュース(独語版)30日付国際面のトップ記事に目が行った。記事の見出しは「教皇レオ14世は反トランプ派ではない」というのだ。米国の神学者マッシモ・ファジョーリ氏は30日、オーストリアのカトリック系新聞「ディ・フルヒェ」の中で、「教皇レオ14世はトランプ米大統領に正面から反対するわけではない。新教皇は反トランプ派ではないのだ」と指摘しているのだ。
米国人初のローマ教皇レオ14世 2025年5月31日、バチカンニュースから
ファジョーリ氏は「レオ14世にとって難しい問題は、米国のカトリック教会の分裂を如何にまとめるかにある。米カトリック教会は現在、保守派と進歩的リベラル派に分かれ、教区、学校、団体などで異なる二つの世界が存在することだ。これは奇妙で不健全な状況だ。特に保守派はここにきて強力かつ戦闘的になっている」という。
ファジョーリ氏が特に警戒しているのは、J・D・バンス米副大統領とその関係者の言動だ。「バンス氏は以前よりはるかに賢明に行動しており、既にトランプ政権後の時代を見据えている。そして伝統的な視点とシリコンバレーの技術の第一人者たちの現代的な方法やアプローチを組み合わせている」という。
同氏によれば、「バンス氏は統合主義者や国家主義者の多くの考えに公然と共感している。彼は米国に移住できるのはキリスト教徒だけであるべきだと主張している。バンス氏の考えはアウグスチノ会出身のレオ14世にとって容認できないものだ」と語った。
ところで、米シカゴ生まれるレオ14世が米国人初のローマ教皇に選出された直後からソーシャルメディアの世界で囁かれてきたテーマは、ロバート・プレボスト枢機卿(レオ14世)の政治的傾向や所属問題だ。具体的には、プレボスト枢機卿は共和党支持者か、民主党のシンパかだ。
プレボスト枢機卿は、23年余り南米ペルーの宣教師として歩んできたこともあって、貧困に悩む南米の人々の実情に精通している。レオ14世の社会問題への傾倒はフランシスコ教皇に似ている。プレボスト枢機卿が教皇名にレオ14世と名乗ることを希望したということは、同枢機卿がレオ13世(在位1878年~1903年)を評価しているからだ。レオ13世は1891年、カトリック社会教説の回勅「レールム・ノヴァールム」を発表し、その中で労働者の権利を擁護し、搾取と行き過ぎた資本主義に警告した教皇だ。
そのようなバックグランドもあって、「レオ14世は反トランプ派だ」とメディアでは報道されてきたが、選挙記録によれば正式には米国共和党に属していたと主張する声がある。トランプ支持者グループの保守派団体「ターニング・ポイント・アクション」のチャーリー・カーク氏はXへの投稿で「レオ14世の投票記録を保有している。彼は共和党員として登録されており、海外に住んでいない時は共和党予備選挙で投票していた。彼は熱心な共和党支持者であり、中絶反対派だ」と語っている。
イリノイ州ウィル郡司法長官事務所がユーロベリファイに提供した州選挙記録によると、プレボスト氏は2012年、2014年、2016年の3回共和党予備選挙に参加していたという。
プレボスト枢機卿は4月、トランプ米大統領の移民政策、特にメリーランド州在住のキルマー・アブレゴ・ガルシア氏をエルサルバドルに強制送還するという物議を醸した決定を批判する投稿をシェアしたことがある。だから、新教皇は反トランプ派だ、とは言えない。カトリック教会の聖職者として苦境にある移民に同情し、連帯感を示す以外に他の選択肢は考えられるだろうか。一方、同枢機卿は中絶問題ではほぼ共和党の見解と同じだ。
ドイツの歴史家で教皇専門家のフォルカー・ラインハルト氏は「シュピーゲル」誌に寄稿し、「レオ14世はイデオロギーの違いを調停できる仲介者となれる可能性がある」と述べている。
ラインハルト氏は「レオ14世になる前、プレボスト枢機卿は、アウグスチノ会の修道士、宣教師、ペルーの司教、そして最終的にはフランシスコ教皇の統治下で高位聖職者といった具合で、多くの立場を経験してきた。こうした多様な経験を通じて、レオ14世は橋を架け、妥協を促進する特別な能力を持っている。どの政党にも属さず、多くの人々に多くのものを与え、ほとんど、あるいは全く他者を傷つけない教皇は、さまざまなイデオロギーの流派の関心を引く可能性がある」と付け加えた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。